作:大塚勇三 絵:丸木俊 出版:福音館書店
音楽はみんなの心を一つにする。
それは海の上でも同じみたい。
種族を越え、生きる場所を越え、音楽の輪が広がっていきます。
あらすじ
広い海の上を、一隻の船が進んでいた。
その船の人たちは音楽が好きで、夕方になると合奏していた。
そのうちに、船乗りたちはあることに気が付いた。
いつでも音楽が始まると、クジラが三頭波の上に出てくるのだ。
最初は遠くにいたけれど、日が経つにつれ、船の近くまで来るようになった。
クジラだけではなく、サメやイルカ、魚たちまで寄ってくるようになり、船乗りたちはさらに張り切って演奏した。
ところがある日、急に空が黒くなり、大きな嵐に襲われた。
船のエンジンは止まり、穴が空いたが、不思議と船は沈まなかった。
やっと嵐が去り、翌朝船の下を見てみると、クジラが船を担いでいた。
クジラだけではなく、他の魚たちもみんなで船を支えてくれていた。
だから、船は沈まなかったのだ。
船の修理が終わると、クジラたちの要望に応え、船乗りたちは合奏を始めた。
その合奏に聞き入りながら、クジラが言った。
「そういうの、自分でやれたら、どんなにいいかなあ」
それを聞いて、船の人たちは助けてくれたお礼に、楽器をあげることにした。
クジラがラッパを欲しがったので、一頭に一つずつラッパを投げた。
すると、サメも欲しがった。
そこで、サメにはピッコロなどを投げてやった。
それを見て、イルカや他の魚たちも欲しがった。
船乗りたちはみんなに楽器を投げてやった。
こうして、海に生き物たちの合奏が始まった。
海の生き物たちは、上手く楽器を演奏できるのでしょうか?
一体どんな音楽が奏でられるのでしょう・・・。
『うみのがくたい』の素敵なところ
- 種族を越える音楽の力
- 船乗りと海の生き物たちの友だちのような会話
- 読むと楽器を演奏したくなる
この絵本のなによりも素敵なところは、種族を越えて心を一つに出来る、音楽の力や可能性を感じられるところでしょう。
人間と海の生き物、暴れん坊のサメと他の魚たち、敵対関係になることもある、違う種族が一堂に集まり、音楽を楽しむのです。
その姿はまるで楽園にいるみたい。
平和で穏やかで、心地のいい時間です。
この絵本は文章と絵から、その雰囲気がひしひしと伝わってきます。
なんだか、こちらの心も穏やかになるようなのです。
その雰囲気をより良いものにしているのが、合奏をしていない時の、船乗りと海の生き物たちの会話だと思います。
クジラに船を担いでもらっている間に修理をしている時、
船乗りが「やあ、きみたちすまないねぇ。ご苦労だけど、もうほんのちょっと頼む。今、大急ぎで穴を塞いでいるからね。
と言うと、クジラが、
「ふーう。なーにいいよ、ごゆっくり。でも、船って重いんだねぇ。こんなの、初めて担いだよ。ところで、夕べは、楽隊はとうとうやらなかったねぇ。」
それに対し船乗りが「うん、嵐でそれどころじゃなかったのさ。仕事が済んだらたっぷり聞かせるよ。」
という風に、お互いを思い遣る、気さくな会話が交わされるのです。
これが物語の雰囲気を柔らかくし、一体感や平和な雰囲気を生んでいるのだと思います。
もちろん、クジラだけでなく他の生き物たちとも。
さて、この絵本の素敵なところはこれだけではありません。
合奏をしている姿が、とにかく楽しそうなのです。
船乗りたちも、海の生き物たちも、全力で楽しそうに合奏します。
それぞれの演奏する、色々な楽器の音が揃い一つになっていく感覚。
それが感じられるのが、この絵本のすごいところなのです。
それを感じたら、自然と楽器を演奏したくなってしまいます。
船乗りや海の生き物と一緒に、楽隊をしたくなってしまうのです。
船乗りや海の生き物たちの、楽しそうに音楽を聴き、合奏する姿。
それを見ることで、平和で心地のいい一体感に包まれる絵本です。
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