ヨーレのクマ―(5歳~)

絵本

作:宮部みゆき 絵:佐竹美保 出版:KADOKAWA

とても心が優しい怪獣。

でも、その姿はとっても怖い。

そんな怪獣の美しく、優しく、とても悲しい物語・・・。

あらすじ

クマ―は怪獣です。

フィヨルドの湖を、見渡す山に住んでいます。

フィヨルドの近くにはヨーレの街があります。

ヨーレの街にはたくさんの人が住んでいて、大きな協会には立派な鐘楼があり、朝と晩に鐘を鳴らします。

晩の鐘が鳴り、街が寝静まったころ、ヨーレの街には悪い怪獣が忍び寄ってきます。

クマ―は悪い怪獣を追っ払い、ヨーレの街を守っていました。

でも、街の人は知りません。

なぜなら、クマ―の体は透明だから。

ある日、クマ―は悪い怪獣を追っ払った時に、ケガをしてしまいます。

大事な頭のてっぺんの角も折れてしまいました。

すると、クマ―には自分の手や足が見えました。

角が折れてしまったので、体が透明ではなくなってしまったのです。

ちょうどその時、ヨーレの街の鐘楼守のおじいさんと、孫娘が森を歩いてやってきました。

そして、クマ―の姿を見ると、怖がり逃げ出しました。

おじいさんが戻ると、街では鐘が打ち鳴らされて、街の人はクマ―を退治しようと追いかけてきました。

追い立てられたクマ―は、フィヨルドの周りを逃げ回るばかり。

何とか逃げ切ったクマ―が、ふらふらとフィヨルドの水辺に近づくと・・・。

『ヨーレのクマ―』の素敵なところ

  • 勇敢で愛くるしいクマ―
  • 誤解の悲しさとやるせなさ
  • 救いのない悲しすぎる結末

この絵本ではクマ―の魅力が痛いほどに伝わってきます。

フィヨルドの自然を愛するクマ―。

森の動物と佇み、背中にはアライグマが抱きついているクマ―。

一人、悪い怪獣と戦うクマ―。

わずか数ページで、その心優しさと、勇敢さにクマ―のことが大好きになるでしょう。

でも、状況は一気に変わります。

街の人に姿を見られ、恐れられ、追い立てられてしまいます。

街の人は、クマ―が街を守ってくれていたことなど知らなかったのですから。

しかし、この本を見ている子どもたちは知っています。

クマ―の心優しさも、勇敢さも。

「違うよ」

と言っても、街の人には伝わりません。

「やめてよ」

と言っても、止まりません。

ただ、追われるクマ―を見守ることしか出来ないのです。

誤解とわかっていても、止めることの出来ない歯がゆさ。

それが子どもたちの表情に浮かんでいました。

悔しさと、悲しさと、心配の表情。

きっと、こんな感情を味わうことは滅多にないでしょう。

だけど、この絵本に救いはありません。

誤解が解けることもありません。

街の人には、怪獣から街を救った英雄譚。

でも、クマ―にとってはただただ悲しい悲劇です。

クマ―の姿を見ていると、桃太郎の鬼や、退治されたドラゴンなど、他のお話にもクマ―がいたのではないかと思ってしまいます。

こんなにも悲しく、寂しい物語。

だけれど、なぜかそこには美しさもあるから不思議です。

クマ―の身に起こる、理不尽で悲しすぎる結末を通して、悲劇を心全体で感じ、味わうことが出来る絵本です。

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