【絵本】トラさん、あばれる(4歳~)

絵本

作:ピーター・ブラウン 訳:青山南 出版:光村教育図書

動物たちが暮らす街。

そこでは、行儀のよさがなにより大切にされていました。

でもある日、そんな毎日にうんざりしていたトラさんが・・・。

あらすじ

あるところに、動物たちの街がありました。

その街では、みんな服を着て、帽子を被り、行儀よく二足歩行で歩いているのでした。

そこに暮らす動物たちは、このままでいいと思っていました。

ただ1人、トラさんをのぞいては。

トラさんは、いつも行儀よくしていることにうんざりしていました。

暴れてみたいと思っていました。

そんなある日、ついにトラさんは思い切って、四足歩行で歩いてみました。

とてもいい気分です。

そのまま走り回ったり、吼えたりしてみました。

さらには、池に飛び込みはだかんぼうに。

それを見ていた友だちは、訳がわかりません。

そして、ついにトラさんは「暴れたいなら森に行ってくれ」と言われてしまいました。

それを聞いたトラさんは、いい考えだと本当に森に行ってしまったのでした。

森に入ったトラさんは、思いっきり暴れました。

さっきよりも大きく吼えました。

とても楽しい時間です。

けれど、森では1人ぼっちなことに気付きました。

友だちに会いたくなりました。

そこで、トラさんは街へ戻ることに。

でも、街に戻ると、なんだかいつもと違っているような・・・。

『トラさん、あばれる』の素敵なところ

  • 行儀よくするのが窮屈だという素直な気持ち
  • 自分らしく暴れる気持ちよさ
  • バランスの大切さが伝わってくる最後の場面

行儀よくするのが窮屈だという素直な気持ち

この絵本のとても共感を生むところは、「きちんとした」街で暮らす窮屈さでしょう。

この街では、中世ヨーロッパ貴族のような礼儀作法が求められます。

大人から子どもまで、タキシードにシルクハットを身に着け、

いい子にしていなさいと言われ、

背筋を伸ばして、すました顔で歩きます。

そして、この行儀よさにうんざりしているのがトラさんです。

おもしろいのは、この構図が大人社会の子ども達にぴったりと当てはまること。

きちんとイスに座って話を聞きなさい。

大きな声で騒がない。

走り回りませんよ。

この言葉を聞いた子どもたちは、まさにトラさんのような気持ちになることでしょう。

この、生活の中で子どもが感じている「窮屈」という素直な気持ちを、トラさんが見事に代弁してくれているのが、この絵本のなにより素敵なところです。

行儀悪くして叱られた後の子どもと、トラさんのうんざりしている顔はまさにうり二つなので、ぜひ見比べてみてください。

自分らしく暴れる気持ちよさ

そんなトラさんは、窮屈さに耐えきれなくなり、ついに暴れ始めます。

最初は、手をついて四足歩行になり、

走り回って見て、

遠吠えをあげてみる。

というように、少しずつ素直な心を開放していくトラさん。

ここでも、トラさんの行動は、子どもたちの欲求を開放したいという心とシンクロします。

ただ、リアルなのはそれをした時に、後ろ指をさす周囲の言動。

街の人たちは「信じられない」という様子で、トラさんを見るのです。

自分の気持ちに素直なトラさんの気持ちよさそうな行動。

それを見る周囲からの視線の痛さ。

これには子どもたちも、居心地が悪そうです。

けれど、トラさんはそんなこと気にしません。

「森に行け」と言われ、嬉々として森へと駆け出すのですから。

さらに、森でののびのびと楽しそうな姿。

この頃には、子どもたちも視線を気にせず、のびのびとトラさんに気持ちを重ねられます。

好きなように走り回り、誰にも止められない自由な時間。

この、心の中にある素直な欲求を、トラさんの行動を通して叶えてくれ、心を開放する気持ちよさを感じさせてくれるも、この絵本のとても楽しい素敵なところです。

バランスの大切さが伝わってくる最後の場面

でも、そんな自由で楽しい時間も、ずっとは続きませんでした。

なぜなら、森には友だちがいないからです。

街で育ったトラさんの友だちは、みんな街に住んでいるのです。

こうして、街に帰ることにしたトラさん。

この時、街におもしろい変化が起きているのが、この絵本のとてもとても素敵なところになっています。

てっきり、もう帰るところがないと思いきや、快く受け入れてくれる街の人々。

そこでの変化や、トラさんへの気遣いがとても心温まり、また生き方を考えるきっかけを与えてくれるものになっているのです。

行儀よくすることを否定もしないし、トラさんの自由も否定しません。

お互いに、羨ましく思うところがあり、見習うべきところがある。

そんな、「やっぱり、バランスが大切だよね」というメッセージが、最後の場面から感じられます。

しかも、語られるわけではなく、ページの端々から読み取れるくらいの、押しつけがましさがないのもまたにくいところ。

行儀良くしたい人も、自由に生きたい人も、両方が気持ちよく暮らせる理想的な景色を見せてくれるのです。

この、トラさんの行動と街の変化を通して、「バランスが大事だよね」ということが感覚的に伝わってくる最後の場面の居心地の良さも、この絵本のとても素敵で世界の温かさを感じられるところです。

ぜひ、最後に載っている作者からのメッセージも読んでみてください。

きっと、大人も子どもも森へ飛び出したくなりますよ。

二言まとめ

行儀よくする窮屈さを打ち壊す、トラさんの暴れっぷりが爽快で心地いい。

でも、「けっきょくはバランスよく取り入れるのが暮らしやすいよね」と、思わせてくれる絵本です。

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