作:たかしよいち 絵:岡山伸也 出版:絵本塾出版
ある日、砂場に埋まっていた不思議な卵。
ヒビが入ると、呼び寄せたように嵐が吹き荒れました。
いったい、これはなんの卵なのでしょう?
あらすじ
幼稚園の砂場で、男の子ジュンくんがトンネルを掘っていると、卵を見つけました。
それは不思議な模様がついている見たこともない卵。
他の子どもたちも集まってきて、なんの卵なのか話し合いました。
でも、「ヘビの卵だよ」と言われてびっくりしたジュンくんは、思わず卵を落としてしまいます。
すると、卵は転がっていき、幼稚園の外へ。
向かいにある公園の林へと入っていってしまいました。
不思議なのは、転がっていくうちに、卵がどんどん大きくなっていくこと。
ジュンくんたちも、公園へと追いかけていくと、卵は大きな木の上にのっかっていたのでした。
ジュンくんがさっそく、木に登り取ろうとしたその時、卵にひびが入りました。
と、突然、雷が鳴りだし、あたりは大雨に。
みんな急いで幼稚園へと避難していきました。
ジュンくんを除いては。
ジュンくんは、ずっと卵を見続けていました。
まもなくして、雨はやみ、あたりは明るく。
そして、明るくなっていく空にジュンくんはあるものを見たのでした・・・。
『ふしぎなたまご』の素敵なところ
- 中身が気になる見た目も動きも不思議な卵
- ヒビが入ったとたんに訪れた嵐にドキドキ
- はっきりと語られない描かれない不思議な生き物
中身が気になる見た目も動きも不思議な卵
この絵本のなによりおもしろいところは、不思議な卵をめぐる様々な推理でしょう。
不思議な模様の正体不明な卵。
この要素だけで、いくらでも話せます。
「ヒヨコかな?」
「でも、変な模様があるよ」
「恐竜かも!」
「でも、小さすぎない」
「埋まってたからモグラの卵かも!」
などなど、子どもたちから色々な推理と反論が続きます。
こんな風に、ただただ、卵の中身を考えるだけでおもしろい。
そして、それだけの魅力が卵という存在に詰まっています。
でも、それだけではこの不思議は終わりません。
落とした瞬間、誰もが「割れる!」と思った卵は、ころころと意思があるかのように転がっていくのです。
しかも、段々と大きくなり、木の上に着地しているという不思議。
これには子どもたちも、
「えー!?大きくなるの!?」
「なんで割れないんだろう?」
「あんなところまで跳べたの!?」
と、目を白黒。
あまりの不思議さに驚いて、これまでの予想が白紙に戻ってしまいました。
こんなに不思議な卵ですが、掘り出されたのが幼稚園の砂場というのもおもしろいところ。
とても身近な場所から掘り出されたということで、自分たちも卵が見つかるかもという期待感が生まれます。
そうなってくると、丸っこい石でも卵に見えてくるからおもしろいもの。
「これ小さいけど卵かもしれない!」
「硬いから、卵が化石になってるのかも!」
など、自分だけの不思議な卵を掘り出していました。
この、身近な砂場という場所から、不思議で魅力的な卵が出てくるという、想像力を掻き立てられるシチュエーションと、なんの卵なのかを考えるおもしろさが、この絵本のとても素敵なところです。
ヒビが入ったとたんに訪れた嵐にドキドキ
そんな卵は、木の上に乗ると動かなくなり、ヒビが入りました。
ここからとても不思議でドキドキするような急展開を迎えるのも、この絵本のとても胸を熱くしてくれるところです。
ヒビが入ると同時に稲光が走り、雨と風が吹き荒れます。
これまで、不思議ではあったけれど、平和な日常の延長線上にいたジュンくんと絵本を見ている子どもたち。
それが一瞬で、非日常的な状況へと一変するのです。
しかも、どう考えてもこの嵐が結びつくものは、卵のヒビ。
それは、生まれてくる存在の大きさをひしひしと感じさせてくれます。
「この嵐、卵にヒビが入ったからかな?」
「なにが生まれるんだろう?」
「怖いね・・・」
と、一気に広がるドキドキ感。
誕生を見るドキドキ感と、その異様な情景とのドキドキ感が相まって、もう絵本から目が離せません。
この、卵のヒビと連動して起こる嵐という、自分たちが思っているよりも大変なものが生まれそうだと感じさせるドキドキ感も、この絵本へ目を釘付けにしてしまう、とても素敵でおもしろいところです。
はっきりと語られない描かれない不思議な生き物
さて、こうして卵から生まれたものですが、この絵本でははっきりと語られず、描かれもしません。
描かれるのは、雲間に見える翼をもった生まれたものの影。
そして、子どもの歌声だけでした。
でも、それを見た子は、
「ドラゴンじゃない!?」
「だって、首が長くて翼もあるよ!」
「きっと卵から生まれたんだ!」
と言っていました。
そう、うっすらと見える影だけで、それが不思議な生き物だとわかるほど印象的な姿なのです。
ただ、はっきりとは語られず描かれないので、あくまで答えは出ません。
それぞれの頭の中で描かれるものが、その卵の正体となるのでしょう。
この、はっきりと語られず、描かれもしないけれど、その存在の不思議さだけは強く伝わってくる、ここでも想像力を掻き立てられる不思議さが、この絵本のとても素敵で魅力的なところです。
ぜひ、見終わった後、「なんの卵だったんだろうね」と、不思議な卵について話し合ってみてください。
色々な想像と、その根拠が聞けておもしろいこと間違いなしですよ。
二言まとめ
見た目も動きも不思議すぎる卵から、なにが生まれるのか予想するのがおもしろい。
その予想よりもはるかに不思議なことが起こるドキドキ感に、目が釘付けになってしまう、最初から最後まで不思議な絵本です。
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