文:三木卓 絵:M・ミトゥーリチ 出版:福音館書店
雪がやんだ後の真っ白な大地。
そこではウサギやキツネ、カササギの賑やかな姿が見られます。
そんな雪原で起こる、たくさんの出会いがおもしろい絵本です。
あらすじ
雪がやみ、真っ白になった雪原の上をフクロウが飛んでいた。
夜が明けて、雪原に3羽のウサギがやってきた。
ウサギたちは嬉しそうにダンスをしている。
しかし、それを狙って見ているものが・・・。
キツネだ。
ウサギたちはキツネに気付き、一目散に逃げだした。
それを追いかけるキツネ。
朝飯にしようと、ぐんぐん距離を詰めてくる。
と、そこに3羽のカササギが飛んできた。
カササギは、キツネめがけて飛び降りると、体中を突っつきウサギを助けに入った。
キツネはたまらず死んだふり。
カササギは、おびえきったキツネの姿を見て、許してやることにした。
白樺の木の下まで逃げていたウサギたちのもとに、カササギが勝どきあげて帰ってきた。
ウサギたちは、カササギにお礼を言うと、喜びのダンスを踊った。
すると、そのダンスに誘われて、たくさんのウソもやってきた。
そしてみんなでダンス!ダンス!ダンス!
だが、その時、カササギがなにかを見つけて飛び立った。
地面にいるウサギにはなにも見えない。
ウサギたちも、カササギたちのもとへ走っていった。
しばらくいくと、ウサギたちにもカササギが見つけたものが見えた。
人間の乗るそりが。
御者はおじいさんで、後ろに乗るのは子どもたち。
イヌも一緒に走っている。
どこへ行くのか?
なにしに行くのか?
カササギとウサギはこっそりとついていく。
さて、このそりはどこにたどり着いたのでしょう?
『ゆきがやんだあとで・・・』の素敵なところ
- まっしろな雪原で起こる出会いの連鎖
- 遠景で描かれるまっしろな銀世界の美しさ
- 気になるそりの終着点
まっしろな雪原で起こる出会いの連鎖
この絵本のとてもおもしろいところは、雪原で起こる様々な偶然の出会いが連鎖していくところでしょう。
最初はウサギだけだった雪原に、それを朝飯にしようと狙うキツネ。
この出会いがカササギを呼び寄せ、ウサギたちを助けてくれる出会いに繋がります。
さらに、このウサギとカササギの出会いが、ウソとの出会いへ繋がり、そりの発見に繋がっていくのです。
この、次へ次へと繋がって、最初はまったく予想もしなかった結末へと流れていくのがおもしろい。
そりが着いた場所の驚きと相まって、この絵本がどんな始まり方をしたか忘れてしまうくらい、同じ絵本の始まりと終わりだと思えないほど、遠くまで来た感覚になることでしょう。
物語になっているようななっていないような・・・
雪原で起こる偶然をただそのまま描き出しているような不思議な感覚。
そんな、この絵本ならではの物語の進み方が、この絵本のとても素敵なところです。
きっと、この絵本の主人公は雪原そのものなのではないか?
そんな気持ちにさせられる不思議な感覚をぜひ味わってみてください。
遠景で描かれるまっしろな銀世界の美しさ
こんな風に、すべての場面が雪原の中で描かれるこの絵本。
特徴的なところが2つあります。
1つはすべて遠景で描かれていること。
どんな出来事が起こっても、この絵本では常に遠景。
遠くから雪原での出来事を眺めているように描かれます。
これが、物語の登場人物に入り込むのではなく、出来事を客観的に見つめるという、この絵本ならではの視点に繋がっているのでしょう。
この視点だからこそ、雪原が主人公だと感じられるのだと思います。
2つ目は、画面のほとんどが雪の色で埋め尽くされているところでしょう。
遠景であることも相まって、絵本の中は一面の銀世界。
絵本を開いた途端、雪国に降り立ったかのような、銀世界に入り込んだ感覚を味わえます。
それが、ページをめくってもずっと続きます。
それはまるで、物語に入り込むのではなく、雪景色に入り込んでいるというのがぴったりな表現でしょう。
雪国に立ち、ウサギたちを眺めている。
そんな景色なのです。
そして、この特徴的な遠景と銀世界。
これが合わさると、そこに現れる色がとても鮮やかに美しく見えるという、素敵なことが起こります。
キツネの毛並み。
カササギの黒。
ウソの赤。
子どもたちのセーターの色。
これらが、まっしろなキャンバスに色を垂らしたかの如く、とても鮮やかに映えるのです。
色の少ない銀世界だからこそ、その色の持つ生き物の美しさが際立ち、存在感と生命力を強く感じられます。
この、雪原を中心とした描き方ならではの、自分が雪原入り込み、そこに立って銀世界を眺めている感覚になれるのも、この絵本のとても素敵なところです。
気になるそりの終着点
さて、そんな銀世界で、偶然の連鎖の末に見つけたそり。
このそりが、たどり着いた先というのが予想外なところでした。
もしかしたら、街中であれば予想ができたかもしれません。
けれど、「雪の中をそりに乗って向かう場所」ということで、誰もその場所を予想できませんでした。
最後の場面の「で、きみは子どもたちがどこに着いたんだと思う?」という言葉に、ほとんどの子が、
「おうち!」
「帰ってきたんだよ!」
と、答えます。
でも、その答えは、予想外でありながら、子どもたちがなんだか嬉しくなってしまう場所でした。
この予想外なのに、嬉しくなってしまう絶妙な答えも、この絵本のとてもおもしろいところです。
ぜひ、この答えを知った時の、子どもたちの反応を楽しんでみてください。
きっと、その絶妙さが実感できると思いますよ。
二言まとめ
雪原で起こる偶然の出会いの連鎖を、客観的な視点で眺めるという不思議でおもしろい体験ができる。
まるで、自分が絵本の中の雪原に入り込み、そこに立っているような感覚を味わえる絵本です。
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