原案:塩野米松 翻案・絵:飯野和好 出版:農村漁村文化協会
ある日、保育園へワニがやってきた。
弁当が生肉だったり、とってもワニだけど、子どもと仲良く遊んでいる。
しかも、なんだか亡くなったおじいちゃんに似てるんだよね・・・。
あらすじ
ある日、保育園からの帰り道。
男の子まことくんは、お母さんに保育園へ新しく入ってきた子の話をしていた。
その子の名前はワニくん。
お母さんは、その子がワニに似ているのだと思い、まことくんに色々聞いた。
すると、そのワニくんは、手も足もお盆くらい大きくて、まことくんのそばに寄ってくるのだと教えてくれた。
しかも、お弁当は生肉に生魚。
その話を聞いて、お母さんが「本物のワニみたい」と言うと、まことくんは「本当のワニなんだ」と答えたからびっくり。
その話を聞いて心配するお母さんだったが、まことくんの話によると、とてもおとなしいし笑っているから大丈夫だということ。
さらに、ワニくんは先生に叱られると「グべー」と泣いたりするらしい。
お母さんは、この話を他のお母さんたちにも伝え、翌日みんなでワニを見に行くことにした。
実際にワニを見てみると、本当に子どもたちと遊んでいるし、なんだかかわいい。
お昼寝の時間、ワニくんはまことくんの隣で眠った。
その時、寝言を言っていて、その寝言が亡くなったおじいちゃんそっくりでおもしろかった。
お遊戯の時間には、踊っているうちにみんなと反対方向に行ってしまう。
これもまるでじいじみたい。
ところがある日、ワニくんは保育園へ来なくなった。
なぜなのかはわからない。
そんな中、お母さんはまことくんに見せたいアルバムがあるという。
そこに映っていたものは・・・?
『ワニくんがやってきた!』の素敵なところ
- 保育園へワニがやってきた!?
- ワニと過ごす保育園での一日
- ワニくんの正体はもしかして・・・
保育園へワニがやってきた!?
この絵本のとてもおもしろいところは、保育園にワニがやってくるというシチュエーションでしょう。
しかも、それに対する保護者の反応のリアルさがさらにおもしろい。
ワニくんが保育園にやってきたと聞き、あだ名だと思うお母さん。
普通はそういう反応になりますよね。
ワニくんがあだ名という前提で質問するお母さんと、本当のワニを思い描いて話すまことくん。
この、絶妙にかみ合っているようでかみ合っていない会話劇がおもしろい。
お母さんの「ワニくんというくらいだからこんな感じの子」という感覚と、
まことくんの「ワニなんだから当然でしょ」という感覚が見事に交差しています。
それを聞いているうち子どもたちも、
「ワニくんって人間の子ども?」
「保育園にワニは来ないもんね」
「ワニ来たら食べられちゃうよ」
「でも、表紙にワニいたよ」
と、ワニくんの正体がワニなのか人間なのか混乱してきます。
そんな状態から、弁当が生肉ということで、本物のワニだと発覚。
驚くお母さんに、子どもたち。
「本当にワニだった!」
「ちゃんと生肉食べてる!」
「大丈夫!?」
と、びっくり仰天。
この瞬間が最高におもしろいところです。
ワニが保育園にやってくるという非現実的なシチュエーションを、お母さんのリアルな反応で「驚くべきことが起きている」と、より実感させてくれえうことでしょう。
ワニと過ごす保育園での一日
こうして、本物のワニと保育園で過ごすのですが、その1日もまたおもしろい。
ワニと一緒に弁当を食べ、ワニの背中に乗り遊び、ワニと隣同士の布団で昼寝して、ワニと一緒にお遊戯します。
その中で、ワニらしい顔から、人間味あふれる姿まで、色々な表情を見せてくれます。
まず、お弁当の時間はまさにワニ。
生肉に生魚をバリバリ食べ、他の子のお弁当をしっぽでひっくり返してしまったりもします。
背中に乗せてくれる姿もまさにワニで、楽しそうにワニと遊ぶ姿がうらやましくなることでしょう。
反対に人間味あふれる行動も見られます。
先生に叱られて泣いたり、悲しい紙芝居を見て涙したり、寝言を言ったり・・・。
こういうところは、ワニだとは思えず、中に人間が入っているみたい。
しかも、亡くなったじいじと似ているところがちらほらあるという不思議。
そんな不思議もありながら、ワニと一緒に保育園で遊べるというのは、やっぱりあこがれて島します。
こんなに優しくて楽しそうなワニならなおさらでしょう。
この、ワニと過ごすとても楽しそうな保育園での1日も、この絵本の素敵でおもしろいところです。
ワニくんの正体はもしかして・・・
こうして、楽しい日々を過ごしていたまことくんですが、ある日ワニが来なくなってしまいます。
悲しそうな表情のまことくん。
まことくんにはまったく心当たりがありません。
でも、まことくんから色々な話を聞いていたお母さんは、ある心当たりがありました。
それはアルバムの中にあるいくつかの写真。
そこから読み取れる素敵なじいじとワニとまことくんの繋がりもまた、この絵本のとても素敵なところです。
しかも、そこでは多くが語られず、ほぼ写真に写っている内容から、その物語を想像する作りになっているのも素敵です。
「じいじがワニの姿になって現れたのかな?」
「ワニに乗り移って少しだけ会いに来たのかも。」
「生まれ変わったんじゃない!」
などなど、「写真の内容」、「これまでのワニの姿といなくなってしまったこと」、「じいじが亡くなっていること」という、キーワードを組み合わせて、様々な物語が想像できるのです。
そして、もちろん正解はありません。
この、じいじに似た行動をするワニの正体や、保育園に来た理由を、散りばめられたキーワードを通して、様々に想像できるのも、この絵本のとても素敵なところです。
ぜひ、読み終わった後、ワニくんがやってきた理由を一緒に考えてみてください。
きっと、生と死や魂に関する、子どもたちの素敵な感性と出会えると思いますよ。
二言まとめ
ワニが保育園にやってくるという、不思議でうらやましいシチュエーションがおもしろい。
まことくんと、ワニくんと、じいじの関係性を想像し、心が温かくなると同時に切なくもなる絵本です。
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