作:ビアンキ 絵:山田三郎 訳:内田莉莎子 出版:福音館書店
なにかいいことを探しているキツネが、穴を掘っているネズミを見つけた。
でも、その穴はキツネから逃げるための穴。
今、ネズミとキツネの頭脳戦が始まります。
あらすじ
ネズミのもとに、キツネが何かいいことはないかとやってきた。
キツネはネズミに近づくと、なぜそんなにも鼻がどろんこなのかと聞いた。
ネズミは地面に穴を掘ったのだと教えてくれた。
キツネがなんだって地面に穴を掘ったのかと聞くと、ネズミは巣穴を作るためだと答えた。
キツネがまたなんだって巣穴を作ったのかと聞くと・・・
ネズミはキツネから隠れるためだと答え、穴の中へ入ってしまった。
キツネはネズミを待ち伏せした。
でも、ネズミの巣穴には寝る部屋があった。
キツネはお腹がすいたら出てくると思ったが、巣穴には食べ物の蔵もあった。
するとキツネはついに巣穴を掘り返し始めた。
でも、ネズミは・・・。
キツネとネズミの頭脳戦の結果やいかに?
『きつねとねずみ』の素敵なところ
- キツネとネズミの生死をかけた頭脳戦
- 子気味よい一問一答な言葉のやり取り
- 1枚上手なネズミにしてやられるキツネ
キツネとネズミの生死をかけた頭脳戦
この絵本のなによりおもしろいところは、ネズミを捕えに来たキツネと、それから逃げようとするネズミの静かな戦いでしょう。
肉弾戦で戦うわけではないのはもちろんのこと、このキツネとネズミはドタバタとしたおいかっけもしません。
するのは普通の会話です。
キツネは友人のように近づいてきて、世間話を始めます。
ネズミもそれに応じて、普通に話へ答えます。
でも、その会話にはどこか不穏な空気がつきまといます。
だって、キツネの目的はわかりきっているのですから。
この、互いに食べたい、逃げたいという正反対な思惑がありながらする普通の会話が、この絵本のなんともおもしろいところとなっています。
ある意味、そのまま追いかけらるより、今にも襲われそうでハラハラすることでしょう。
ただ、ネズミが機を見て巣穴に飛び込んだ後も、この頭脳戦は終わりません。
入り口をふさぐキツネに、ちゃんと対策してある巣穴の作りと、一進一退の攻防が繰り広げられていくのです。
ぜひ、単純なぶつかり合いではない、キツネとネズミの戦いをハラハラドキドキしながらお楽しみください。
子気味よい一問一答な言葉のやり取り
そんなキツネとネズミの攻防は、一問一答形式で進んでいきます。
この子気味よいテンポ感も、この絵本の見ていて、読んでいてとても楽しいところです。
「おい、ねずみ。ねずみ。鼻がどろんこ、どうしたんだい?」とキツネが言えば、
「地面に穴を掘ったのさ。」と答えるネズミ。
「なんだって地面を掘ったんだい?」とキツネ
「巣穴を作ったのさ」とネズミ。
「なんだって巣穴を作ったんだい」からの・・・
「きつねさん。あんたから、かくれるためさ。」と。ネズミは巣穴に飛び込みます。
この本性を隠した一問一答からの、状況の変化がなんとも痛快。
一問一答でじわじわと状況が進んでいくからこそ、状況の変化へのインパクトが強くなるのでしょう。
それはまるで、『赤ずきんちゃん』でオオカミに化けたおばあさんに、赤ずきんが質問する場面のよう。
「おばあさんの耳、なんでそんなに大きいの?」と、一か所ずつ聞いていき、最後に本性を現す構図に似ています。
ただ、大きく違うのはこの絵本ではキツネの本性がわかっていること。
だから、キツネを出し抜いた時に、痛快なおもしろさがあるのです。
巣穴に入った後も、
「おい、ねずみ。ねずみ。それでも、お前を待ち伏せするよ。」
「おあいにくさま。巣穴には、寝る部屋があるんだ。」
と、一問一答で、キツネとネズミの攻防は進んでいきます。
この、テンポ感よく、わかりやすく、とても痛快な、一問一答形式の言葉のやり取りも、この絵本のとてもおもしろいところとなっています。
1枚上手なネズミにしてやられるキツネ
さて、そんなキツネとネズミのやり取りですが、常にネズミ主導で進んでいきます。
明らかに、体が大きく、捕食者という時点で圧倒的なキツネですが、頭脳戦ではネズミの方が一枚上手。
キツネが来る前に巣穴を掘ってあったり、待ち伏せ対策がされていたり、キツネがやってくる前から対策されていたのですから。
この完璧すぎる対策っぷりに、最初はハラハラドキドキしていた子どもたちも、段々と安心して見られるように。
そうなってくると、圧倒的強者を手玉に取る爽快な物語に早変わり。
子どもたちの目線も、
「次はどうやって出し抜くんだろう?」
というものに変わります。
そして、その期待へ見事に応えてくれるネズミ。
「ネズミさん頭いい!」
「ネズミさんすごいね!」
と、子どもたちもすっかり頭のよいネズミに魅了されてしまうのです。
この、常にネズミがキツネの一歩先を行き、先手先手で自分よりも強く大きなものを手玉に取る爽快感も、この絵本のとてもおもしろいところです。
二言まとめ
食べようとするキツネと、逃げようとするネズミの、本性を隠した頭脳戦がおもしろい。
小さなネズミが大きなキツネを、常に出し抜くさまがとても痛快な絵本です。
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