作:ジョン・バーニンガム 絵:ヘレン・オクセンバリー 訳:谷川俊太郎 出版:イースト・プレス
妊婦のお母さんと男の子が色々な場所に出かけます。
そこで思い描くのは、生まれてきた赤ちゃんの未来の姿。
これは、赤ちゃんが生まれるまでの親子の物語です。
あらすじ
お母さんは、男の子に赤ちゃんが生まれることを伝えました。
雪の道を歩きながら男の子はお母さんに聞きます。
「いつくるの?」
「なんて名前にするの?」
お母さんは答えます。
秋になったら生まれてくること。
考えている名前のことを。
男の子はそれを聞いて、男の子がいいと答えます。
だって、一緒に遊べるから。
男の子は、赤ちゃんがなにになるのかも考えました。
レストランに行った時、お母さんが赤ちゃんは「シェフになるかも」というので、シェフになったときのことを考えてみました。
男の子は「赤ちゃんが作ったものなんて食べたくない」と思いました。
美術館では、お母さんが赤ちゃんは「絵描きになるかも」というので、絵描きになったときのことを考えてみました。
男の子は「うちで絵を描かせたら、めちゃくちゃになっちゃうからダメだよ」と答えました。
公園を散歩していると、お母さんが赤ちゃんは「庭師になるかも」と言いました。
男の子は「大きくなったらぼくと遊べるようになる」と思いました。
雨の日、男の子は「赤ちゃんに来るなって言えないの?」「うちには赤ちゃんなんかいらないんじゃない」とお母さんに聞きました。
お母さんは優しく微笑んでいました。
その後も、色々な場所に遊びにいきます。
動物園、海、銀行、病院・・・
そのたびに、赤ちゃんの未来に思いを馳せるお母さんと男の子。
ある秋の夜、男の子はベッドでお母さんに尋ねます。
「赤ちゃんはいつくるの?赤ちゃんに会いたいよ」と。
そして、ついに・・・
『あかちゃんがやってくる』の素敵なところ
- 赤ちゃんの未来を想像しながら過ごす、お兄ちゃんになるまでの日々
- 揺れ動きながら準備ができていく男の子の心
- 物語の始まりが楽しみになる絵本の結末
赤ちゃんの未来を想像しながら過ごす、お兄ちゃんになるまでの日々
この絵本のなにより素敵なところは、お母さんと男の子の何気ない会話を通して、赤ちゃんが生まれるまでの日々を丁寧に描き出していることでしょう。
その中で、話の中心となるのが、赤ちゃんが将来どんな風になるかというもの。
お母さんと男の子は、出かけた先で、赤ちゃんの将来に思いを馳せます。
ここで、赤ちゃんの将来を会話だけで終わらせないのも、この絵本のおもしろいところ。
赤ちゃんの将来について話したあと、働いている赤ちゃんの姿が、見開き1ページでしっかり描かれます。
これが漫画調になっていて、とってもコミカル。
赤ちゃん姿のまま、料理をしたり、絵を描いたり、木の世話をしたり・・・。
この赤ちゃんと仕事というギャップに思わず笑ってしまいます。
子どもたちも、赤ちゃんが働く姿を見て、

火傷しないのかな?



赤ちゃんなのに上手!



ほんとに部屋がめちゃくちゃになってる!
と、その働きっぷりに、驚いたり、心配したり、大笑いしたり。
実際に働く姿が躍動感たっぷりに描かれることで、純粋に見ていて楽しいものとなっているのです。
この、赤ちゃんが生まれるまでの日々という、重要だけれど少し重くなりやすいテーマなのに、見ていて驚くほど明るく、コミカルで楽しいところが、この絵本のとても素敵なところです。
揺れ動きながら準備ができていく男の子の心
こうして、色々なところに出かける赤ちゃんが生まれるまでの日々。
赤ちゃんが生まれるまでの日々ということは、男の子にとってはお兄ちゃんになるまでの日々とも言えます。
お母さんに「赤ちゃんが生まれる」と教えてもらってからの日々は、これまでの日々とは大きく変わります。
それだけ、赤ちゃんの存在というのは、小さな子に大きな影響を与えるのです。
この大きな影響を受けながら、日々の積み重ねの中で変化していく男の子の気持ちを見守っていけるのも、この絵本の素敵なところ。
男の子の気持ちはもちろん揺れ動きます。
赤ちゃんへの興味と楽しみな気持ち。
反対に、お母さんをとられるのではないかという不安な気持ち。
それが、この絵本ではとてもよく描き出されています。
赤ちゃんがいつ来るのか知りたがったり、名前に興味を持ったり、大きくなったら一緒に遊べるかもと、お兄ちゃんになるのを喜ぶ姿。
赤ちゃんの将来に否定的なことを言ったり、生まれてこないで欲しいと言ったり、他の家で赤ちゃんが起こした困った行動を伝える、不安な気持ちを表現する姿。
そのどちらもが、とても子どもらしく、とてもリアル。
まさに揺れ動く複雑な気持ちが、男の子の姿から感じられるのです。
この、コミカルな赤ちゃんの働く姿を描く中で、お兄ちゃんになるという複雑な気持ちの揺れ動きを、見事にリアルに丁寧に描き出しているのも、この絵本のとてもとても素敵なところです。
きっと、もう下の子がいる子は、不安だった気持ちへの共感を。
まだいない子には、自分の心にも起こるかもしれない気持ちの変化への準備をさせてくれることでしょう。
物語の始まりが楽しみになる絵本の結末
さて、そんな絵本の結末は、出産日の病院前で終わります。
赤ちゃんが生まれる姿や、それに対する男の子の反応を見ることはできません。
でも、それが本当に素敵なところ。
まさに、赤ちゃんが生まれるまでの日々を描いた絵本となっています。
この結末を素敵だと思うポイントは2つです。
1つめは、男の子は赤ちゃんと会ったとき、どんな反応をするかや、赤ちゃんと過ごす日々がどんなものになるかを、それぞれが想像して作り出せるというところ。
赤ちゃんを見たことがある子なら「しわしわだな」と言うことを想像するかもしれません。
大喜びすると思うかもしれません。
優しく世話をする姿を想像する子も、よくけんかする姿を想像する子もいるでしょう。
生まれた赤ちゃんと出会う場面を描かないことで、想像できる未来は大きく広がり、無限の可能性を持つのです。
もう1つは、絵本のその後を描かないことで、この絵本を自分の物語にすることができるからです。
生まれた姿や、名前、性別など、なにも描かれなかった赤ちゃんは、どんな赤ちゃんにでもなることができます。
そう、それは自分の弟や妹をそこに当てはめ、物語の続きと現実にある自分の家庭をつなぎ合わせることができるということ。
特に、赤ちゃんが生まれたばかりの子や、お母さんのお腹の中に赤ちゃんがいる子などは、物語の続きを繋げやすいことでしょう。
自分の家と繋がることで、絵本は終わりますが、物語は自分を主人公として続いていきます。
そして、絵本と自分の物語が繋がったとき、この絵本はとても特別な本になります。
この、赤ちゃんと出会う場面を描かないことで、物語をさらに続けていくことができる結末も、この絵本のとても素敵でおもしろいところです。


おしまい!
二言まとめ
赤ちゃんが生まれるまでの日々の中で、お兄ちゃんになる男の子の複雑に揺れ動く気持ちを丁寧に、リアルに描き出した。
リアルさとコミカルさのバランスが絶妙な、しみじみとした深さも笑える楽しさも味わえる絵本です。
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