作:アーノルド・ローベル 訳:まきたまつこ 出版:富山房
昔、色がなかったすべて灰色だった時代。
魔法使いが偶然魔法で青色を作り出し世界は青一色になりました。
最初はみんな喜びましたが、次第に憂鬱な気持ちに。
次に、魔法使いは黄色を作り出しました。
今度は黄色を塗ってみると・・・。
あらすじ
ずっと昔、世界に色はありませんでした。ほとんど灰色で、その他は白と黒。灰色の時と呼ばれていました。
ある村に、魔法使いが住んでいて、いつも何かが間違っていると思っていました。魔法使いは地下室で気分を紛らわすため色々な魔法を使っていましたが、ある日壺の底に妙なものができました。灰色でも黒でも白でもないものです。魔法使いはおもしろそうだと思い、奇妙なものをたくさん作ってみました。
さっそく奇妙なもので屋根を塗っていると、村の人達が見たこともない奇妙なものがなんなのかを聞きに来ました。魔法使いは奇妙なものを青色と呼ぶことにしたのだと教えてくれ、みんなにも青色をわけてくれました。
またたく間に、世界は青に染まり、青色の時が始まりました。みんな世界が色づいて大喜びです。
ところが、青色はそんなによくありませんでした。みんななんだか悲しい気持ちになって、元気がなくなってしまったのです。世界から笑いも消えてしまいました。
魔法使いはなんとかするため、地下室でまた魔法を使いました。すると、また違う奇妙なものができました。魔法使いは奇妙なものを黄色と名付け、また村の人たちに分け与えました。
世界はたちまち黄色に染まり、黄色の時が始まりました。みんな黄色一色の世界に大喜びでした。
ところが、黄色もそんなによくありませんでした。目がチカチカし始めたので、目をつぶって歩くようになったのです。そのせいでつまづいたり、ぶつかったり大騒ぎ。目がチカチカしすぎて頭まで痛くなってしまったのです。
魔法使いはまた地下室に行き、魔法を使いました。すると、また違う奇妙なものができました。魔法使いは奇妙なものを赤色と名付け、村の人たちに分け与えました。
すぐに世界は赤色に染まり、赤色の時が始まりました。みんな赤一色の世界に大喜び。
ところが赤色もそんなによくありませんでした。みんな怒りっぽくなりけんかばかりになってしまったのです。近所の人が魔法使いに文句を言うと、魔法使いも怒って言い返します。
魔法使いはやっぱり地下室に行き、新しい色を作ろうとしましたが、どれだけやっても青・黄色・赤しかできません。やがて、壺は3色でいっぱいになってしまい、とうとう溢れ出してしまいました。
ところが、魔法使いは大喜び。溢れ出した色が混ざり合い色が変わるのを見たからです。
大喜びの魔法使いがさっそく始めたのは・・・

おしまい!
『いろいろへんないろのはじまり』の素敵なところ
- 色がないという想像もつかない世界
- 色による感情への影響を実感できるおもしろさ
- 色の持つとてつもない力を感じられるカラフルな結末
色がないという想像もつかない世界
この絵本でまず驚かされるのが、世界に色がないというところです。灰色と白と黒で描かれる村の様子は、賑やかそうなのにどこか空虚。とても味気ないものとなっています。
この色のない世界に色が生み出される最初の瞬間を見ることができるというのですから、ワクワクしないはずがありません。

青だ!



色ができた!
と、魔法使いがまだ名前もない青色を作り出した時の、子どもたちが目を見張る様子はとても印象的でした。世界に色が生まれる感動的な瞬間です。
ただ、色を生み出しただけでは終わらないのも、この絵本のとてもおもしろいところです。青を生み出したはいいものの、世界が青一色になってしまうのです。これはこれで変な世界。絵本の中の人々は喜んでいるものの、色があればいいというわけではないことがよく伝わってきます。
子どもたちも、



青だけだとなんか寒そう



なんか見えにくいね
と青一色の世界から色々なことを感じとっているようでした。
このあとも世界の色は次々変わり、一色だけの世界の奇妙さを様々な色で見せてくれます。



黄色のほうがいいんじゃない?
と言う子もいましたが、様々な色で一色だけの世界を見せてくれるからこそ、ずっと1つの色だけだとあまりよくないことを再確認させてくれます。
この、色のない世界と一色しかない世界という、普段色が当たり前の世界からは想像もできないような、不思議でおもしろい世界を見せてくれるのが、この絵本のとても素敵なところです。
灰色や一色の世界を見ることで、自分のいる世界がどれだ色鮮やかで美しいか改めて実感できることでしょう。
色による感情への影響を実感できるおもしろさ
灰色の世界に魔法使いが色を生み出し、そのたびに一色に染まる中で問題が出てきます。色が一色しかないと、人々の感情もその色に染まってしまうのです。
色による感情変化の影響を、普段はさり気なく味わっています。雨やくもりでどんよりしているといつもより元気が出なかったり、お日様の光を浴びると元気が出たり・・・。でも、色や明るさが感情へ影響しているというのをあえて意識する機会は少ないでしょう。
そんな色や明るさによる感情の変化を、この絵本では画面いっぱい使って突きつけてくるのがおもしろいところ。青・黄色・赤しかないページを見せられると、嫌でも色が心に与える影響を意識させられます。
というよりも、



青だとみんな泣いてるみたい



全部黄色だと明るすぎて目が痛い・・・



赤は暑くなっちゃいそうだもんね
など、色の影響が絵本の感想として出てきていて、直感的に色の持つ性質を感じ取っているようでした。
全部同じ村・同じ世界なのに、色が違うだけでまったく違う場所のように見えるから不思議です。一色のみで世界を描き出すことにより、色の持つ大きな力とバランスの悪さを実感させてくれることでしょう。
この、普段はあまり意識していない色の持つ力を、一色だけの世界を通して味あわせてくれるのも、この絵本のとてもおもしろい素敵なところです。
色の持つとてつもない力を感じられるカラフルな結末
青・黄色・赤と3つの色を作ってきた魔法使いですが、どれも世界はアンバランスになってしまいました。そこで新しい色を作ろうとしますが、どうやっても3色しかできません。
ですが、ある日、壺から溢れ出した色が混ざり合うのを見て、魔法使いは新たな可能性を発見します。この新たな可能性の発見から最後のカラフルな結末へと続く流れも、この絵本のとても楽しく見応え抜群なところとなっています。
やっぱり、色と聞いた時ワクワクするのが色を混ぜるという遊び。壺から溢れ出した色が少し混ざり合う場面だけで、



あそこ、オレンジになってる!



緑ができてるよ!
と、大盛りあがり。少しの変化も見逃しません。
しかも、このあと、しっかりたっぷり色が混ざり合い、どんどん色が増えていく様子も見られるのだから大満足です。ここまで色のない灰色の世界から、一色だけの世界を経て、カラフルさを渇望している子どもたちにとって、色が増えるというのはこれ以上なく嬉しいこと。
色の持つおもしろさや美しさ、楽しさをこれでもかと結末へ向けて味あわせてくれます。
そして行き着く最後の場面。この最後の場面は、一番最初に灰色の村を魔法使いが見渡している場面とまったく同じ絵が使われます。けれど、まったく同じ絵に見えないのがおもしろい。同じ絵なのにこんなにも変わるのかと驚かされ、思わず最初の場面に戻って見比べてしまうことでしょう。
この色を混ぜ合わせる工程や、最初の場面とまったく同じ絵を使う演出などで、色の持つとてつもない力と、色のある世界の美しさ・ありがたさを再認識させてくれる結末も、この絵本のとてもとても素敵なところです。
きっと見終わったあと、周囲や外の景色を見渡しに行きたくなりますよ。
二言まとめ
色のない世界に色が生まれていく様子に感動し、一色に染まる世界を見て感情を揺さぶられる。
色の持つとてつもない力と、カラフルな色が当たり前にあるありがたさを、改めて実感させてくれる色が生まれる物語です。
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