作:イエラ・マリ 出版:ほるぷ出版
男の子が風船ガムをふくらませると、赤い風船になり飛んでった。
飛んでった風船は、少しずつ形を変えてリンゴになる。
でも、リンゴは地面に落ちて割れてしまった。
割れたリンゴは羽のような形になると・・・
あらすじ
※この絵本は字のない絵本です。
男の子が赤い風船ガムをふくらませると、男の子の口を離れて空へ飛んでいきました。赤い丸から細い紐が伸びてきて、風船ガムは赤い風船に。
赤い風船は、すこしずつ上下が凹みリンゴの形になると、リンゴの木へくっつきました。でも、木から落ちてしまったリンゴは、地面にぶつかりヒビが入ってしまいます。
リンゴのヒビが広がって、羽のような形なっていくと、蝶になって飛び立ちました。
草むらを飛んでいくうち、羽が広がり大きくなる蝶。一本の草にくっつくと、蝶は花になりました。
花は誰かに摘み取られ、少しずつしおれていきます。しおれた花びらはだんだんとお椀型にくっついて、雨が降り出すと傘になりました。
傘をさしているのは、風船ガムの男の子。男の子は、傘をさしながら歩き出しました。

おしまい!
『あかいふうせん』の素敵なところ
- どんどんかたちをかえていく風船のおもしろさ
- 文字がないからこそ見入ってしまう繊細で美しい物語の世界
- 最後に男の子へ戻って来る驚きの結末
どんどんかたちをかえていく風船のおもしろさ
この絵本のなによりおもしろいところは、風船ガムからどんどん変化していく形のおもしろさです。
風船ガムから本当の風船になり、リンゴ、蝶へと姿を変えていく赤い丸。急に変化するのではなく、少しずつ形が変わっていく様子から、

次はなにになるんだろう?



なんか羽に見える!
と、予想するワクワク感が味わえます。変化するたび目をキラキラさせ、



リンゴになっちゃった!



お花になった!きれいだね♪
と、驚く子どもたちの反応がとてもかわいくおもしろいですよ。
また、なににでも変化できる赤い丸が、どんな変化をしていくのかまったく予想できないのも、この絵本のおもしろいところ。
ある程度丸みのあるもので変化していくのかと思いきや、割れたり、広がったりで、最初が赤い丸だったことなど忘れてしまうくらい、ぜんぜん違う形へ変化してしまいます。変化の種類も人工物、草花、生き物と、まったく制限がありません。
でも、なんとなく秩序だったものを感じるから不思議なのです。脈絡がないようでいて、どこかその変化が当たり前のように感じるなにか・・・。形が変化していく様が自然すぎて秩序だって感じるのかもしれません。ただ、間違いないのは変化していく様子が美しく心地よいということ。
水の雫が流れて形を変える時のような、粘土を造形している時のような、自然の法則に従って形が変化していく時の感覚をあじわえることでしょう。
この、美しく変化していく形のおもしろさと、予想もつかないものになっていく驚きが、この絵本のとても素敵でユニークなところです。
文字がないからこそ見入ってしまう繊細で美しい物語の世界
この絵本には文字がありません。細い線で描かれた繊細な絵だけで進んでいきます。色も風船の赤のみで、ほかはすべて白黒です。この繊細で美しい絵には、字があると邪魔になってしまうのでしょう。それくらい絵のみで完成されていることを感じさせられます。
この完成度の高さを表しているのが子どもたちの、絵本へ釘付けになっている姿です。文字などなくても絵の変化を真剣な表情で追って、違うものに変わるたび口をあんぐり開けて驚きます。それに文字などなくても子どもたちが、



風船ガムが本物になった!



リンゴ落ちて割れちゃったよ・・・
とナレーションをしてくれます。このナレーションが字などなくても、すべて伝わっていることを教えてくれているのです。
また、字がないからこそ、それぞれの頭の中で物語が生まれます。



リンゴの中にアオムシがいてチョウチョになったのかも



チョウチョが蜜を吸ってたからお花になっちゃったのかな
など、それぞれの経験と絵の変化が繋がって、様々なことを変化の理由や物語として想像しているようでした。
この、字がないからこそ絵の美しさやおもしろさがより際立ち、字がないからこそ自分だけの物語や繋がりを想像できるところもこの絵本のとても素敵なところです。
赤に目がいきがちですが、白黒の背景に生き生きと描かれた自然にも目を向けてみてください。様々な生き物たちの生き生きとした姿を見つけることができますよ。
最後に男の子へ戻って来る驚きの結末
色々な変化を遂げた赤い風船ガムは、最後に傘へ変わります。この傘をさしているのが、最初に風船ガムを膨らませていた男の子だという、驚きの結末へ繋がるのもこの絵本のとてもおもしろいところです。
花になった風船が、誰かの手が伸びてきて摘まれてしまう場面や、摘まれた花がしおれていく場面では手の正体はわかりません。花が傘の形になっていく場面でもわかりません。雨が降ってきて、傘をさす場面になり、ついに男の子が顔を出すのです。その瞬間、



あ!最初の男の子だ!



戻ってきたんだね!
と大盛りあがり。形に目を奪われていたことで、おおいに不意打ちをくらったのでしょう。名作ミステリーの結末を見ているのかと思うほど、みんな意表をつかれていました。しかも、男の子の顔の出現位置が、最初のページとまったく同じという構図もにくい演出になっています。
細い線であまり特徴なく描かれた顔なのに、一発で同一人物だと認識できるのですから。
この、原型を忘れてしまうほどに変化していった風船ガムが、形を変えて風船ガムをふくらませた男の子の元に戻ってくるという意外過ぎる展開に、見事なほど驚かされてしまうのも、この絵本のとてもおもしろいところです。
男の子はこの傘が自分の風船ガムだと気付いているのか気になるところですね。
二言まとめ
赤い風船ガムが次々と形を変え、全然違うものに変化する姿がおもしろくも美しい。
文字がないことで、見た人それぞれに形が変化していく繋がりや物語を想像させてくれる形の絵本です。
コメント