やくそく(4歳~)

絵本

文:二コラ・デイビス 絵:ローラ・カーリン 訳:さくまゆみこ 出版:BL出版

すさんだ人々、すさんだ町、すさんだ自分。

ずっと変わらないと思っていた。

そこに細い細い光が差し込んだ。

それはたった一つの小さな「やくそく」だった。

あらすじ

子どものころ、私が暮らしていたのはぎすぎすして、ずるくて、すさんだ街だった。

その街ではなにも育たず、なにもが壊れていて、笑顔を見せる人もいなかった。

私はスリだった。

ある晩、暗い通りで、膨らんだカバンを持ったおばあさんに出会った。

私はそのかばんをひったくろうとした。

おばあさんは抵抗した。

かばんを引っ張り合っているうちにおばあさんは言った。

「おまえさんにやるよ。これを植えるって約束するならね」と。

私は約束した。

すると、おばあさんは手を放しにっこりした。

私はその場から逃げた後、かばんを開けた。

中には食べ物やお金が入っているはずだった。

しかし、中には綺麗な緑色のどんぐりがいっぱいに詰まっていた。

私は「約束」を思い出し、「自分が手に入れたのは森かもしれない」と思った。

そう思うと、心の中で何かが変わった。

翌朝から、どんぐりを植え始めた。

ぎすぎすして、ずるくて、すさんだものを全部どけて、どんぐりを次から次へと植えていった。

最初はなにも起こらなかった。

でもやがて、小さな芽が顔を出した。

芽は木になり、街中のあちこちに現れた。

それを眺めているうちに、街の人は笑うようになった。

そのうち、街の人も木や花や果物、野菜を育てるようになった。

街に緑が広がった。

けれど、その頃、私はもう遠くにいて、次の町にどんぐりを植えていた。

その街が終わると、さらにその次、その次へと。

しかし、ある晩・・・。

『やくそく』の素敵なところ

  • 少し難しく複雑な概念を子どもに届ける表現力
  • 私の小さな行動で見違えるように生まれ変わる街と人
  • 繋がっていく「やくそく」

この絵本の一つのキーワード。

「ぎすぎすして、ずるくて、すさんだ」

これは子どもには少し難しく、複雑な概念だと思います。

いつもならこれらの言葉を聞いた子は、

「ぎすぎすってなに?」

「すさんだってどんなこと?」と聞いてきます。

ところが、この絵本ではそんな質問はありませんでした。

絵の色合い、私や人々の表情、この街の様子などによって、感覚で理解できるからです。

その暗く、乾いて、陰鬱な感覚が。

これは言葉の意味を知ることとは違います。

なぜなら、この感覚を持っているからこそ、私や人や街が変わっていく姿を本当に実感し、それがすごいことなのだと感じ取る原点になるからです。

この陰鬱さをストレートに、しかし小さな子でもわかるように表現しているこの絵本は本当にすごいと感じます。

さて、そんな「ぎすぎすして、ずるくて、すさんだ」私や街や人は、私の小さな行動で変わっていきます。

それはどんぐりを植えること。

最初は孤独です。

暗い街にどんぐりが点として植えられていきます。

ですが、どんぐりが芽吹くと、少しずつ色づいてきます。

そして、人が変わり笑顔になると、一気に街全体が色づきます。

この広がりが圧巻なのです。

子どもたちもこの光景に「わ~・・・」と感嘆の声を漏らします。

うっとり見とれているようでした。

しかし、この絵本の素敵なところは自分の街だけでは終わらないところです。

おばあさんとの「やくそく」は次の街へも繋がっていきます。

さらに次、さらに次へと・・・。

この物語の最後には街以外のものへも繋がっていくのが、さらに深くて素敵なところ。

とても小さな「やくそく」と「行動」を通して人や街、心を変えていけること。

そんな難しいテーマをわかりやすく、色鮮やかに、ストレートに伝えてくれる絵本です。

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