作:ペク・ヒナ 訳:長谷川義史 出版:ブロンズ新社
飴玉には、色んな味や色、模様のついたものがたくさんあります。
そんな中でもこの飴玉は特別性。
なんと、食べると普段しゃべらないものの声が聞こえてくるのですから。
あらすじ
男の子のドンドンは一人でビー玉遊びをしている。
友だちはビー玉遊びの面白さがわかっていない。
ドンドンを仲間にも入れてくれない。
だから一人で遊んでいる。
新しいビー玉が欲しいなと思い、お店に行ったらいくつかのビー玉がセットになったものが売っていた。
しかし、それはビー玉ではないらしい。
飴玉だった。
ドンドンは飴玉を買って帰り、早速食べてみた。
まずはチェック柄の飴玉から。
ハッカの味がすると同時に、耳にポンときた。
すると、突然リビングからドンドンを呼ぶ声が聞こえてきた。
なんと、ソファーがドンドンを呼んでいたのだ。
「ソファーはわき腹にリモコンが挟まっていて痛いから取ってくれ」という。
リモコンを取ると、ついでにお父さんにソファーでおならをしないでくれるよう伝えることも頼まれた。
口の中の飴玉が消えると、声も聞こえなくなった。
次にぶち模様の飴玉を口に入れてみた。
今度は飼い犬のグスリの声が聞こえてきた。
彼が言うには、ドンドンのことが嫌いではないらしい。
それなのにドンドンから逃げるのは、もう歳だからのんびり過ごしたいのだそうだ。
ドンドンはグスリの言い分を聞き、夕方まで仲良く遊んだ。
そうこうしていると、パパに声をかけられた。
パパは延々と小言を言ってくる。
むしゃくしゃして、ザラザラの飴玉を舐めながら寝ることで仕返ししようとした。
ところが聞こえてきたのは、パパの心の声だった。
「好きや、好きや、好きや」とドンドンへの心の声が聞こえてくる。
ドンドンはパパに抱きつき「ぼくも」と言った。
残る飴玉は3つ。
一体どんな声が聞こえてくるのだろう。
『あめだま』の素敵なところ
- 飴玉を舐めるごとに聞こえる、予想外な声の数々
- 人形で描くことを活かした、躍動的なセリフの描き方
- 自分の声を届ける飴玉
この絵本の飴玉は不思議な力を持っています。
ソファーや犬、パパの本当の気持ちなど、普段は聞こえない声ばかり。
そんな声たちは、見ている人の予想をいい意味で裏切ってきます。
ソファーは近所のおばさんのようにまくし立ててくる。
犬のグスリは付き合いが長いからこその回りくどい言い方。
パパは1ページまるごと小言を言った後に「好きや」と思っているギャップ。
などなど、どの声も予想外で驚きに満ちています。
だからこそ、飴玉を舐めた時に「今度はなんだろう!?」と子どもたちが前のめりで次のページに釘付けになってしまうのでしょう。
予想外の言葉に笑いつつも、犬の場面では「確かに大変だもんね~」、パパの場面では「よかったね♪」と言うように、ドンドンとともにその気持ちに寄り添っているようでした。
さて、そんなたくさんの声たちですが、人形を使っていることを物凄く活かした描き方になっています。
実写と絵の間のような人形に、吹き出しで声を入れることによって、クレイアニメを見ているような躍動感を感じられるのです。
文字の大小や、字体により、さらに本当にしゃべっている感が増しています。
また、単純に声が聞こえるだけじゃなく、ひと手間必要なものが出てきたりと、所々で予想外の面白さを加えてくるので、飽きる暇を与えてくれません。
でも、この飴玉は相手の声を聞くことは出来るけれど、自分の声は届けられません。
届けるためにはアクションを起こさなければならないのです。
そして、最後に出てくるのはなにも聞こえない飴玉。
その最後の場面から裏表紙までの流れに「よかったね」と泣きそうになってしまいます。
これは大人だけかもしれませんが・・・。
子どもはきっとドンドンの目線で、自分から踏み出す勇気をもらえることでしょう。
不思議な飴玉から始まる、不思議な声の物語。
声を聞く大切さと一緒に、声を伝える大切さも伝わってくる絵本です。
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