ねすごしたサンタクロース(5歳~)

絵本

文:垣内磯子 絵:宇野亜喜良 出版:小学館

クリスマスイブの夜。

日本のサンタが寝過ごした!

トナカイじゃ間に合わないし、銀河特急の最終列車も行ってしまった。

もう、頼れるのは友だちの魔法使いしか・・・。

あらすじ

クリスマスイブの夜。

北のサンタクロース村から、次々とサンタが飛び立っていきます。

その中で、一軒だけ、まだ眠っている家がありました。

日本担当のサンタの家です。

「はっ」と目を覚ましたのは24日の真夜中過ぎ。

もう、日付は25日に変わっています。

飛び起きたサンタは、大急ぎで準備を整え外へ出ます。

もう、トナカイでは間に合いません。

そこで、銀河特急の駅へ行きますが、目の前で最終列車が出発してしまいました。

万事休すかと思われた時、いい考えが閃きました。

隣村に、魔法使いの友だちがいたことを思い出したのです。

サンタは携帯を取り出すと、魔法使いにかけました。

電話に出た魔法使いは寝ぼけ声です。

しかし、サンタの話を聞くと、「すぐ、行く!」と大急ぎで駆けつけてくれました。

サンタと合流すると、すぐにサンタをほうきの後ろに乗せて飛び上がります。

ですが、海の上を進んでいると、なんだかほうきの様子が変。

グラグラしながら、少しづつ高度が落ちていくのです。

ほうきが海に墜落する瞬間、サンタの袋が滑り落ち、海の中へと沈んでいきました。

すると、ほうきはまた高度が上がり、静かに海に浮かぶ岩の上へ着陸したのでした。

魔法使いは、サンタに「太り過ぎなんだ」と文句を言いました。

それを聞いて、泣き出すサンタ。

自分のことを責め始めます。

それを聞いて、魔法使いも謝りました。

サンタは、魔法使いを見ているうちに、いいことを思いつきました。

魔法でプレゼントを出してもらえばいいのです。

けれど、魔法使いは、魔法学校の劣等生で、そんな魔法は使えません。

今度は、魔法使いが自分を責め始めました。

と、その時、一つだけ使える魔法を思い出しました。

それならば、日本の子どもたちに届けられます。

早速、魔法使いは呪文を唱え始めます。

一体どんな魔法なのでしょう?

『ねすごしたサンタクロース』の素敵なところ

  • 自分たちにプレゼントが届かないかもしれない危機感
  • サンタと魔法使いの似たもの同士な友情
  • 解決しているようで解決していないモヤっとした最後

自分たちにプレゼントが届かないかもしれない危機感

この絵本の面白いところは、数いるサンタの中で、寝坊したのが日本のサンタというところ。

アメリカ、インド、フランスと、世界の国にサンタが飛び出して行く中、ベッドの中にいるのは日本のサンタ。

見ている子どもたちのプレゼントを、運んでくれる予定のサンタなのです。

これには楽しそうに見ていた子どもたちも、

「え!?日本ってここじゃん!」

「わたしたちのプレゼントが!」

「ちょっと、起きて!」

と、急に真剣な表情に。

突然、他人事じゃなくなります。

解決してもらわないと、プレゼントが届かないという、独特のドキドキ感が物語に生まれるのです。

このなんとも言えない自分事感が、この絵本の面白くて素敵なところです。

サンタと魔法使いの似たもの同士な友情

さて、寝坊して打つ手がなくなったサンタが、最後に頼ったのは魔法使いでした。

この魔法使いが、とてもいいやつ。

訳を話すとすぐに駆けつけてくれ、サンタを手伝ってくれます。

ただ、寝過ごしたサンタに、負けず劣らずのポンコツっぷりを発揮。

ほうきはガクガク。

大した魔法も使えません。

そんな2人のやり取りが、なんともふんわりして面白いのも、この絵本の素敵なところ。

色々と案を思いつきますが、ことごとく実行できません。

でも、相手を悪く言うこともなく、「自分が悪いんだ」と言い合う二人。

二人とも素直でいいやつ過ぎるのです。

思うようには進まないけれど、なんだか憎めない二人。

この似た者同士の、ポンコツコンビが、なんともいい味を出していて、プレゼントが届いていないのに、「しょうがないな~」という気にさせてくれるのです。

解決しているようで解決していないモヤっとした最後

この二人がついに思いついた解決策。

それが物凄くいい話風なのですが、よくよく考えるとほぼ解決していないのも、この絵本の素敵なところ。

根本的には、ほぼ解決していないのに、二人はもの凄く満足げ。

最後に交わすセリフも、壮大なことをやり遂げた感を出して来ます。

これを見て、ついつい「いい話だったな」と思うのですが、改めて考えてみると「いい話だったか?」と思えてくる。

この感じが、まさにサンタと魔法使いのポンコツコンビにピッタリで、「まあ、この二人ならしょうがないか」と思わされてしまうのです。

二言まとめ

寝坊しちゃうサンタと、魔法があまり使えない魔法使いという、癖が強すぎるコンビ。

この二人が作り出す、独特の空気感とテンポ感が、やっぱり癖になってしまうクリスマス絵本です。

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