おれはワニだぜ(4歳~)

絵本

文・絵:渡辺有一 出版:文研出版

ワニは、強くて恐ろしい、ワニらしく生きなくちゃいけない。

でも、人間に捕まって、芸を仕込まれてしまった。

こんなのちっともワニらしくない。

そんなある日・・・。

あらすじ

クロコダイルは、ワニの中で一番でかくて恐ろしい。

そんなクロコダイルが、川辺で眠り、海の向こうにあるワニの楽園の夢でも見ようとしていたら・・・。

急に網が降って来て、黒メガネの人間に捕まってしまった。

そのまま遠くまで運ばれて、着いたところは街の中にある黒メガネの家。

黒メガネは、クロコダイルにフラフープやボールの芸を覚えさせた。

そして、それを街の広場で見せ、お金を稼ぐのだった。

クロコダイルは思った。

「情けねえ。ワニの恥さらしだ。」

ある日、街中でワニ革の店を見つけた。

そこにある商品は、みんな仲間たちのもの。

それ以来、なにもかも嫌になり、黒メガネの言うことも聞かず、芸をするのもやめた。

お父さんやお母さんからの「ワニはワニらしく」という言葉を思い出したクロコダイル。

ワニらしくいるために、消火栓に繋がれた鎖を切ろうと引っ張った。

すると、消火栓が抜け辺りが水浸しに。

そして自由になったクロコダイルは街を・・・。

『おれはワニだぜ』の素敵なところ

  • 一人称視点で描かれるワニの葛藤
  • ワニらしさが溢れだす言葉遣い
  • 驚きのワニの行く末と、まさかの伏線

一人称視点で描かれるワニの葛藤

この絵本のなによりおもしろいところは、すべてワニ目線で描かれる物語でしょう。

人間とはまた違った、ワニの常識で物語が描かれます。

主人公はワニの中でも恐ろしいクロコダイル。

体も大きく、顔も怖そう。

その性格も恐れ知らずで、強さこそがすべてという感じ。

絵本の始まりから、「クロコダイルって知ってるか?ワニの中で一番でかくて、恐ろしいんだぜ」と、自慢げに語りかけてくるところから、このワニの強さと恐ろしさが伝わってくるようです。

そんなワニが、ある日人間に捕まってしまいます。

芸をしないと魚が食べられないという環境。

屈辱を感じつつ、芸をする毎日です。

「こんなことさせやがって。おれはワニだぜ。いつかお前を食ってやる」

と言いつつ、頑張って色んな芸をする姿は、なんとも哀愁漂います。

さらに、ワニ革の店を見た時の、同じワニだからこその反応は、人間では気にもならなかった視点でしょう。

ワニの視点だからこそ気付かされるものだと思います。

この物語を通して、ワニらしく生きようとするけれど、うまくいかない葛藤が、おもしろいだけじゃなく、深みのある考えさせられる話にもなっているのです。

同時に、最後の結末の解放感をより高めてくれるものにもなっています。

ワニらしさが溢れだす言葉遣い

そんなワニらしさが語られるこの絵本。

言葉遣いにも、もちろんワニらしさが詰まっています。

タイトルからすでに滲み出ている、乱暴で荒々しい言葉遣いはまさにワニ。

捕まった時に「おいっ、黒メガネ。お前なんか、頭から丸かじりできるんだぞ!」と威嚇したり、

街についてやっと魚を貰った時に「久しぶりの飯も、死んだ魚じゃうまくねえな。」と文句を言ったり、

怖がる人を見て「こえーだろ、おそろしいだろ。」と嬉しそうにしていたり。

そんな言葉を聞いていると、自分もすっかりワニ気分になってくるから不思議なものです。

最初は、

「こわ~い!」

「そんなこと言っちゃダメなんだよ」

など、行儀よく聞いていた子も、終盤になるとすっかりワニの味方です。

「早く逃げて!」

「怪獣みたいでかっこいい!」

と、すっかりワニ目線で応援です。

ワニの言葉を借りて、普段とは違う自分、自由で強くて怖い自分になることができるのも、この絵本のとても素敵なところです。

驚きのワニの行く末と、まさかの伏線

さて、そんなワニの行く末ですが、消火栓を引き抜いて、自由の身になります。

その後の展開がすごい!

これまで人間の言いなりになっていた鬱屈した気持ち。

ワニ革を見た、理不尽への怒りと仲間への悲しみ。

それがすべて解放されるのです。

人間にとってはかなり恐ろしく迷惑な話ですが、これはワニの物語。

そんなの関係ありません。

まるで怪獣映画のようなシーンの数々に、心が躍ります。

見ている子どもたちはすっかりワニ。

この解放感を心から楽しんでいるのです。

その姿はまさに「おれはワニだぜ」と言わんばかりです。

そしてワニが向かう先。

それを知った時、「まさかあれが伏線になっていたとは・・・」と驚かされます。

大して重要じゃないと思っていたワードが、最後の最後出てくるのです。

この伏線があることで、最後の結末が突拍子もないものから、ものすごく納得感あるものになっています。

そのおかげで、ものすごい解放感とスッキリ感で物語が終わるのです。

二言まとめ

ワニの目線と、ワニらしさ溢れる言葉遣いで語られる、ワニの理不尽な気持ちがとても伝わる物語。

そこから解放された時、見ている人も「おれはワニだぜ」と言いたくなる、ワニによるワニのための絵本です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました