ばけねこのおよめさん(4歳~)

絵本

作・画:大海赫 出版:復刊ドットコム

恐ろしい化け猫に、お嫁さんになれと言われた女の子。

そんなの絶対嫌なので、知恵を振り絞ります。

怖いような、かわいそうなような、幸せなような不思議なお話です。

あらすじ

女の子トコは、お母さんに買ってもらった赤い帽子が大好きでした。

ところがある日、強い風が吹き、帽子を飛ばされてしまいました。

帽子を追いかけ走って行くと、なんと赤い帽子は化け猫の頭の上に乗っかっているではありませんか。

トコは勇気を振り絞って、帽子を返して欲しいと言いました。

すると化け猫は、ちょっとしたお願いを聞いてくれたら返してくれると言います。

トコはちょっとしたお願いならと、帽子を返してもらうことにしました。

ですが、化け猫のしてきたお願いはちょっとしたものなどではありませんでした。

トコに化け猫のお嫁さんになれというのです。

化け猫はトコを抱きしめました。

最初は断っていたトコですが、その力のあまりの強さに、ついに「いいわ」と言ってしまったのでした。

そう言うと、化け猫はトコを放してくれました。

そこでトコは化け猫に、うまく化けられたらお嫁さんになってあげると条件を出しました。

化けるのが得意な化け猫は、自信満々に引き受けます。

化け猫が何に化けるか聞くと、虹に化けるように言われました。

すぐに、化け猫は呪文を唱え始めます。

そして、姿がどんどん変わっていき・・・虹の形になりました。

ですが、その姿は黒い虹に、黄色のしま模様。

目もひげもある虹でした。

それを見て呆れるトコ。

今度は自動車に化けるように言いました。

化け猫はすぐに自動車に化けましたが、その姿は大きな口のある不気味なもの。

全然自動車に見えません。

またもトコに呆れられ「化けるのが下手だ」と言われ、すっかり落ち込む化け猫。

もう謝ることしかできません。

そんな化け猫にトコは最後のチャンスをあげると言います。

それは、今日がトコの誕生日だから、トコの家に来てバースデーケーキに化けること。

化け猫はしょんぼりしていましたが、トコに家に着くとバースデーケーキに化けました。

トコは喜んだふりをして、ケーキにナイフを入れようとします。

ナイフの先がケーキをつついたとたん、化け猫は痛くて飛び上がりました。

ケーキが食べられないとわかり、トコはがっかり。

化け猫はケーキから元の姿に戻ると、すっかり震えあがって、結婚は諦めるから殺さないでくれと言いました。

ついに結婚を諦めてくれた化け猫。

これで一件落着となるのでしょうか?

『ばけねこのおよめさん』の素敵なところ

  • おどろおどろしい化け猫と、それにぴったりのおどろおどろしい雰囲気
  • トコの知恵ですっかり逆転する立場
  • 一番恐ろしいのは・・・

おどろおどろしい化け猫と、それにぴったりのおどろおどろしい雰囲気

この絵本のなにより印象的なところは、化け猫のおどろおどろしさでしょう。

人間よりも大きな体。

ギラギラとした不気味な目。

ヘビになっているしっぽ。

意地の悪そうな表情や、乱暴なしゃべり方など。

化け猫のまさに化け物といった感じが嫌でも伝わってきます。

だからこそ恐ろしい。

そんな化け猫が、お嫁さんになってくれと迫ってくるのだから、その恐ろしさも人一倍。

トコちゃんも、見ている子どもたちも、震えあがります。

「お嫁さんになんかなりたくない!」

と、トコちゃんと声をそろえる子どもたちですが、身を寄せ合っている姿から化け猫を怖がっているのが伝わります。

さらに、化け猫の見た目だけでなく、ページの背景や色使いなど、雰囲気自体も化け猫のようにおどろおどろしくなっているのも、より化け猫が恐ろしく見える要因でしょう。

暗い色使いの中に、よく見ると目が合ったり、化け物の顔のようになっていたり。

なんだか化け物にが潜む、森の中にいるような、化け物に囲まれているような嫌な雰囲気を感じさせてくるのです。

これが、化け猫の不気味さや言動と相まって、恐ろしさを増幅しています。

このしっかりと化け猫が恐ろしく、不気味なところがこの絵本のとてもドキドキさせてくれる素敵なところです。

トコの知恵ですっかり逆転する立場

ですが、そんな恐ろしい化け猫に、トコは知恵で立ち向かいます。

いや、正確には知恵と気の強い性格で立ち向かいます。

最初は恐ろしくて、勇気を振り絞り話しかける弱々しい女の子といった感じのトコ。

抱きしめられた苦しさで、結婚を承諾する姿は昔話のお姫様に通じるものがあるでしょう。

けれど、それも最初だけ。

化け猫の化け方が下手だとわかった辺りで、急に気の強さを発揮していきます。

虹に化けた化け猫に「ヒャー、きーもち悪い!」とド直球の感想を投げつけ、「こんなの虹じゃない。すぐ消えなさい。」と命令する立場に。

さらには自動車に化けた化け猫が「おれのお嫁さんになれ。でないと、お前をひき殺すぞ!」と言われても「やってみなさい。お嫁さんになってあげないもーん。」と鋭すぎる切り返し。

この頃にはすっかり立場が逆転し、お嫁さんにするためのチャンスをあげる側になっています。

あんなに怖かった化け猫は、肩を落とし、トコの後ろをしょんぼりトボトボ。

もう恐ろしさも威厳もありません。

むしろちょっとかわいそうにすら思えてきます。

このトコの強さと、立場の変わりっぷりのギャップも、この絵本のとてもおもしろいところです。

身を寄せ合って怖がっていた子も、この頃にはすっかり大笑い。

怖い絵本からおもしろい絵本へと、すっかり見方が変わっている様でした。

一番恐ろしいのは・・・

さて、そんな物語の最後の場面。

トコの恐ろしさに、負けを認め、お嫁さんにするのを諦めた化け猫。

その時の、恐れおののく化け猫の表情はなんとも言えません。

ですが、ここで終わらないのがこの絵本のすごさ。

本来ならめでたしめでたしのはずですが、トコは最後の作戦をしかけます。

これがなんともとんちが利いていて、滑稽で、恐ろしい作戦。

自己防衛のためなのか、イタズラ心なのか、化け猫への親切心なのか・・・。

その辺はわかりませんが、なんにせよ一番恐ろしいのは化け猫ではないことだけはわかります。

背筋がぞくっとしますが、せめてもの救いは化け猫が幸せそうなこと。

めでたしめでたしなのか?そうでもないのか?色々なことを考えさせられつつも、おもしろい結末も、この絵本のとても素敵なところです。

二言まとめ

化け猫の恐ろしさと威厳がどんどんと失われていく、立場の逆転がおもしろすぎる。

あんなに怖かった化け猫が、なんだかかわいく、かわいそうに思えてくる不思議な物語です。

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