【怪談絵本】うみぼうず(4歳~)

絵本

作:杉山亮 絵:軽部武宏 出版:ポプラ社

船を沈める恐ろしい妖怪うみぼうず。

そんなうみぼうずに出会って、生き残った男の子のお話です。

うみぼうずの特徴や対策までよくわかる昔話です。

あらすじ

昔、北の浜辺の貧しい村に、小さな男の子が漁師のおじいさんと2人で暮らしていた。

ある年の春。

いつもはたくさん獲れるニシンが、まったく獲れなかった。

飢え死にしそうになった漁師たちは、ろうそく岩より沖に船を出そうと相談した。

そこは、普段は行かない遠い海だった。

それを聞いたおじいさんは、反対した。

昔からろうそく岩より沖に船を出すと、恐ろしい目にあうと言い伝えられていたからだ。

けれど、飢えてそれどころではない漁師たちは聞く耳を持たなかった。

翌朝、漁師たちはろうそく岩へ船を出した。

その後、遅れておじいさんも船を出すことにした。

男の子の腹がなったからだ。

すると、男の子も一緒に漁を手伝うと言う。

こうして、男の子とおじいさんもろうそく岩へ向かって船をこぎ出した。

ろうそく岩へ向かう途中、先に船を出していた猟師たちとすれ違った。

その船には大量のニシン。

たくさん獲れたので、帰り支度をしていたのだ。

おじいさんもさっそく網を仕掛けると、どっさりとニシンがかかった。

網を引き揚げると、おじいさんはすぐに帰り支度を始めた。

ここらの海は、いつまでもいるところではないと思ったからだ。

こうして、船がろうそく岩の辺りへ来た時だった。

おじいさんと男の子は、村の船がみなひっくり返っているのを見つけた。

そのひっくり返った船の向こうで、板切れにつかまり浮いている漁師がいる。

すぐに、船に引き上げ話を聞くと、その漁師は「うみぼうずに沈められた」と震えながら話した。

と、その時。

晴れていた空が暗くなり、風が吹き、海の上には火が燃えだした。

おじいさんはすぐに船をこぎ出し逃げようとした。

けれど、大波に煽られ、船は思うように進まない。

さらに、海の中からたくさんの真っ黒なうみぼうずが姿を現したからたまらない。

男の子が必死でおじいさんにしがみつくと、うみぼうずたちはなにやら歌うように言い始めた。

よく聞くと「ひしゃくをよこせ」と言っている。

おじいさんは真っ青になり、すぐに船底にあったひしゃくを海坊主に放り投げた。

それを必死で止める漁師。

けれど、時すでに遅し。

ひしゃくは海坊主の手に渡ってしまったのでした。

すると不思議なことに、渡したひしゃくは、どんどん大きくなり、数もうみぼうずの数だけ増えた。

うみぼうずたちは、そのひしゃくで水をすくうと、船へ水をかけ始めたのだ。

漁師の話では、他の船も同じように沈められてしまったらしい。

どんどん流れてくる水に、おじいさんと漁師は覚悟を決めた。

・・・ところが、船は沈まない。

おじいさんは、恐る恐る櫓をこいで、無事にろうそく岩から離れることができたのだった。

いったいなぜ、おじいさんの船だけは沈まなかったのでしょう?

『うみぼうず』の素敵なところ

  • うみぼうずの恐ろしさが余すところなく詰まった昔話
  • その恐ろしさをさらに盛り上げるおどろおどろしい絵
  • 偶然見つけたうみぼうずへの対抗策

うみぼうずの恐ろしさが余すところなく詰まった昔話

この絵本の、なによりおもしろいところは、うみぼうずの恐ろしさが、これでもかと描き出されていることでしょう。

まずはそのビジュアル。

目も口もない、真っ黒で山のように大きい塊というのは、不気味そのもの。

愛嬌を感じる隙間すらありません。

さらにひしゃくを渡すと、容赦なく水を入れて沈めてくる無慈悲さ。

そこには仲良くなれそうな余地もありません。

ただただ、不気味な恐怖として存在するうみぼうずは清々しいくらいに怖い。

でも、怖いのはうみぼうずそのものだけではありません。

お話の作りも、不穏な伏線が張り巡らされていて怖いのも特徴です。

「ろうそく岩より沖へ船を出すと恐ろしい目にあう」という言い伝え。

不思議ほど大量に獲れるニシン。

「だめだ。それを渡しちゃ!」という、漁師の言葉。

そのどれもが、

「絶対、うみぼうずいるよ・・・」

「こんなにニシンが獲れて大丈夫かな・・・?」

「ひしゃく渡しちゃダメなの!?」

と、子どもをドキドキさせていました。

この、昔話らしいわかりやすい伏線のドキドキ感と、それを裏切らないうみぼうずの無慈悲な恐ろしさを思う存分味わえるのが、この絵本のとても素敵で恐ろしいところです。

その恐ろしさをさらに盛り上げるおどろおどろしい絵

また、この恐ろしさをさらに盛り上げてくれるのが、そのおどろおどろしい絵。

まず、絵本全体が、昔の絵巻物のようなタッチで描かれていて、それだけで開いてはいけない本をひも解いているような、秘密めいた気分になります。

これが、怪談と驚くほど相性ぴったり。

常に何かが出てきそうな不安を感じられるのです。

さらに、うみぼうずが出てくるシーンでは、うみぼうずが出てくる前の、空に渦巻く黒い雲や、海に燃える不知火のおどろおどろしさだけで、背筋が凍るような怖さを感じることでしょう。

そんな中、現れるうみぼうずは、真っ黒でぬぼーっとしたただの塊。

ただただ得体のしれない不気味さがります。

きっと、生き物感が皆無だからでしょう。

暗くて深い穴を覗き込む時の様な、本能的な不安を感じさせられます。

そう、絵本全体として、「怖い」というよりおどろおどろしい「不安」が強いのです。

妖怪やオバケを見ているというよりも、絶対的な自然にもてあそばれているような。

この、うみぼうずのおどろおどろしい怖さを十二分に引き出し、ドキドキ感を大いに盛り上げてくれる素晴らしく特徴的な絵も、この絵本のとても素敵なところです。

偶然見つけたうみぼうずへの対抗策

さて、そんな恐ろしいうみぼうずにも、実は対抗策がありました。

この、救いや対策があるのも、この絵本の素敵なところ。

たくさんドキドキさせられた分、もし自分の前に現れても、希望があるというのは重要です。

しかも、それがうみぼうずを退治するなどといった無粋なものではないのも素敵。

純粋にうみぼうずの特徴を逆手に取った、知恵比べのような対策なのです。

これには子どもたちも、安心するとともに納得。

「たしかに、これなら大丈夫だね!」

と、自分たちにもできる対策法に、うみぼうずの怖さが緩和されたようでした。

この、うみぼうずの怖さを壊さない、でも、誰もが助かることができるという、絶妙な対策法を知ることができるのも、この絵本のとても素敵で妖怪への知識が深まるところです。

二言まとめ

うみぼうずのおどろおどろしい恐ろしさへの、身震いするドキドキ感がたまらない。

特徴とその対策まで、うみぼうずのことが余すところなく詰まった怪談絵本です。

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