文:二宮由紀子 絵:青山友美 出版:文研出版
家の中にあるものたちがチームを組んで水泳大会を開催しました。
その泳ぎは、いい意味でも悪い意味でもその特徴を活かしたものばかり。
さあ、金メダルはどのチームの手に!?
あらすじ
家にあるものが集まって、水泳大会を開催しました。
このレースは、メドレーリレー決勝。
背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、自由形の4選手がチームを組んで泳ぎます。
1レーンはお掃除チーム。
2レーンは遊びチーム。
3レーンはお風呂チーム。
4レーンは食べ物チーム。
この4チームでのレースです。
スタートを切るのは、掃除機、ミニカーの消防自動車、シャンプー、納豆という、背泳ぎの4選手。
掃除機とミニカーがしっかり水に沈みこんで泳ぐ中、納豆はカップが軽すぎて浮き上がり、シャンプーはふたが開いたようで泡立ってしまっています。
しかし、ミニカーは水がかかるのが苦手でスピードが落ちていきました。
ターンをして折り返すと、先頭は納豆で、次に続くのが掃除機。
ここで掃除機がスイッチを入れ納豆を吸いこもうとしますが、レーンが遠すぎて届かず。
1位納豆、2位掃除機、3位シャンプー、4位納豆で、次の平泳ぎ選手にリレーします。
次の選手は、雑巾、スマホ、お風呂のふた、ポテトチップス。
1位のポテトチップスは、飛び込みの際に袋が開いてしまい水が入って大慌て。
そこを、2位の雑巾が水にぬれて重くなっているのをものともせず追い抜きます。
お風呂のふたは、大きな体がコースロープに引っかからないよう、慎重に進みます。
最下位のスマホは、泳ぎながらゲームをしているので順位が上がらず、泳ぎスマホでチームに迷惑をかけていました。
1位雑巾、2位ポテトチップス、3位スマホ、4位お風呂のふたで次の選手へ。
バタフライで泳ぐのは、バケツ、袋入りドーナツ、バット、お風呂イスです。
ドーナツは浮き輪から泳ぎを教えてもらいましたが、全然進みません。
だって、浮き輪がバタフライしているところなんて見たことがありませんから。
そんなドーナツを抜いて、バットがすごいスピードで飛び出します。
お風呂イスは安定した泳ぎを見せます。
ターンをした折り返し、1位のバケツに水が入って沈みそうになり一気に失速。
勢いの衰えないバットがバケツも追い抜き1位になりました。
こうして、1位バット、2位バケツ、3位は同時に泳ぎ着いたお風呂イスとドーナツ。
最後の選手サッカーボール、スポンジ、アヒル、カップラーメンの自由形へとリレーします。
自由形はクロールで泳ぐ選手が多い中、ぷかぷかと浮かぶ独特の泳ぎ方で先頭に出たのがアヒル。
カップラーメンも、中に水が入らないよう立ち泳ぎで後に続きます。
1位だったサッカーボールはあっという間に3位へ。
蹴ってくれる人がいないので、なかなか前に進まないのです。
そんな中、スポンジがプールの底に汚れを見つけ、我慢できず掃除を始めてしまいました。
さて、いよいよレースも大詰めの折り返しターン。
まだまだ勝負のわからないこのレース。
いったいどのチームが優勝するのでしょうか?
『おうちすいえいたいかい』の素敵なところ
- 身近にあるものがどんどん出てくるおもしろ水泳大会
- 特性を知っているほどおもしろいレース内容
- 臨場感抜群の実況風ナレーション
身近にあるものがどんどん出てくるおもしろ水泳大会
この絵本のなによりおもしろいところは、家にあるものたちが一堂に会し、水泳大会を始めるというところでしょう。
出てくるものも多種多様。
おもちゃから、家電、食べ物まで幅広く出てきます。
しかも、それが泳ぐというのだからおもしろさも倍増です。
「泳げるのかな?」
「掃除機壊れちゃうよ!」
「雑巾は沈んじゃうんじゃない?」
など、表紙を見ただけで、予想が広がります。
どれも身近なものだからこそ、みんな興味津々でレースの内容が気になるのでしょう。
しかも、チーム戦というのがまたおもしろい。
掃除、遊び、お風呂、食べ物というカテゴリーで分類されているので、4チームのリレーでありながらレース内容もわかりやすく。
さらに、次にどんな選手が出てくるのか、どんなレース展開になるのかというリレー特有のワクワク感も味わえます。
この、身近なものが泳ぐというおもしろさと、リレーの持つ先の見えないレース展開というおもしろさ、両方が合わさったこの絵本でしか見ることのできない白熱のレースが、とても手に汗握るところです。
特性を知っているほどおもしろいレース内容
そんなレース内容は、どれも選手の特性をいい意味でも悪い意味でも活かしたものになっています。
なので、そのおもしろさを理解するには、どうしても物の性質がわかっている必要があります。
もちろん、なんとなく見てもおもしろくワクワクするのですが、それだけだともったいないと思ってしまうネタがたくさん仕込まれているのがこの絵本。
納豆のカップが軽すぎて浮いてしまったり、
飛び込みの衝撃でポテトチップスのふたがあいてしまったり、
バットのボールへのインパクトがバタフライの力強いインパクトと繋がっていたり、
雑巾が水にぬれて重くなるけどいつも掃除に使われて鍛えられているからへっちゃらだったり・・・。
それぞれの特性×水泳という要素が、見事に絡み合っていておもしろいのです。
それにより、選手に触れたことがあったり、実際に水に入れたことがあったりすると、それぞれの泳ぎにものすごい納得感が生まれます。
「雑巾濡れると重くなって沈むもんね!」
「ポテトチップス、パンってやると破れるもんね!」
「アヒルはいつもお風呂にいるから速いんだよ!」
と、子どもたちも自分の経験とつなぎ合わせてものすごい納得。
家にあるものだからこそのおもしろさを存分に味わっているようでした。
この、出てくるものの特性を知っていれば知っているほどおもしろくなる、特性×水泳が納得感抜群に描かれているのも、この絵本のとてもおもしろいところです。
子どもの年齢が上がるごとに読んでみると、物への理解度の変化に伴って、よりこの絵本をおもしろく感じるようになっていくと思いますよ。
臨場感抜群の実況風ナレーション
さて、こんな風に家にあるものがその持ち味を活かして戦う水泳大会ですが、選手たちはほとんどしゃべりません。
しゃべるのは優勝インタビューの時ぐらい。
そう、この絵本の文章は、ほとんど実況として描かれているのです。
その口調や雰囲気は、まさにオリンピックなどの水泳大会。
カメラに移されたレースの模様を見ながら、声だけの実況を聞いているという感じなのです。
例えばスタートのシーン。
「さあ、スタートだ!いっせいに水に潜って水中をぐんぐん進むバサロ・スタートです。あっ、軽い紙カップの納豆だけ、すぐ浮き上がってしまいましたね。おや?水面に泡が出ています。シャンプーの頭のふたがゆるんだんかも?」
というように、まさに実況。
この実況により、レースの臨場感が増し、盛り上がります。
特に追いついたり追い越したりする時の臨場感は、まさにレースそのもの。
「どっちが勝つんだろう!?」
「金メダルは誰かな!?」
と、子どもたちも思わず手に汗握ります。
この、実況風ナレーションにより、オリンピックさながらの臨場感を味わえるのも、この絵本のとても素敵で盛り上がるところです。
ぜひ、本物の実況さながらに読んで、レースと子どもたちを盛り上げて、胸が熱くなる試合を届けてあげてください。
二言まとめ
身近な家にあるものたちがレースをするという、この絵本でしか見られないレースに手に汗握る。
そのまま見てもおもしろいけど、選手の特性がわかっていればわかっているほど、さらにレース内容がおもしろくなる、臨場感たっぷりの水泳大会絵本です。
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