文:フィリップ・レスナー 絵:クロスビー・ボンサル 訳:べっくさだのり 出版:アリス館
人間になりたい子グマが人間の生活について聞かされます。
体を洗い、服を着て、ボタンを付け、靴を履き・・・。
でも、どれもクマ目線なのでちょっと変。
クマの目線で人間の生活を見るなんともユニークな絵本です。
あらすじ
ある森で、子グマのテッドがいつも変わらない日々に飽き飽きしていました。なにか違うものになってみたいのだと、年寄りクマのオーガストに話します。
オーガストは頭がよくて、魔法がとても上手いクマ。テッドの話を聞き、何になりたいのかを聞きました。
すると、テッドは人間になりたいと言いました。でも、ここ何年も人間に変える魔法はやったことがないので思い出せないと言われてしまいます。
考え込むテッドに、オーガストは人間ができないといけないことを話し始めました。
まず、朝になると起きて体中を洗う。でも、川に飛び込むのではなく、お鍋みたいなものに水を入れ、上から水が降ってくる道具とツルツル滑るものを使い、体中をこすって泡だらけになる。さらに、別のブラシ使って歯をこする。
次に、洋服を着る。洋服は袋みたいなもので、頭から被り、手も足も中へ入れ、ボタンやチャックで袋をしめる。
そこで、オーガストは前に拾ったボタンを、テッドに見せてくれました。人間はボタンを小さな穴に通し、洋服のあちこちにつけるのだと教えてくれました。
チャックについてはオーガストもあまりわかっておらず、知っているのは上げたり下げたりするもので、ミツバチが飛んでいるようないい音がして、時々、上がらなくなったり、下がらなくなったりすることだけでした。
服を着たら、靴を履く。厄介なのは靴紐で、長いミミズみたいなやつで靴が外れないようにする。靴というの足が濡れたり冷えたりしないようにするための、がらんどうの足みたいものだ。
靴を履き終わったら、朝ご飯を食べる。でも、ただ食べるだけじゃなく、スプーン、フォーク、ナイフという特別な道具を使う。オーガストは人間が忘れていったフォークを使ってご飯を食べようとしたが、自分の鼻を10回も突き刺してしまい、やっとうまくいった時には食べ物が下に落ちていたと教えてくれた。
ご飯が済んだら学校へ行く。学校は子どもがいろんなことを覚えるところで、先生が質問をする。学校が終わったら外へ出てあちこち遊ぶ。棒で小さなボールを打ったり、小さい丸い輪に乗ってスイスイ走ったり、大きな輪に倒れないように乗ることもある。あと、宿題もしないといけない。
宿題が済んだらやっと寝られるが、寝る時にも朝やったことをまたやらないといけない。それも逆さまに。洋服を脱ぎ、体中を洗い直すんだ。
オーガストの話をすべて聞き終わると、テッドは座って考え込みました。オーガストは伸びをすると、人間になる魔法の支度に取り掛かります。鍋に水を入れ魔法の薬を作り始めます。
魔法の薬が完成し、テッドに声を掛けるオーガスト。果たしてテッドは人間になるのでしょうか?

おしまい!
『にんげんってたいへんだね』の素敵なところ
- クマの視点で描かれるヘンテコな人間の生活
- ヘンテコだけど共感できる人間の生活への感想
- オーガストは本当に魔法が使えるの?
クマの視点で描かれるヘンテコな人間の生活
この絵本のとても楽しいところは、クマがクマ目線で人間の生活を語るところです。
人間にとって当たり前のことでも、クマにとってはとても奇抜に映ります。
お風呂1つとっても、毎日体を洗う習慣そのものも不思議ですが、なにより不思議なのは使う道具。原理のわからないクマにとっては謎だらけです。なぜ鍋のようなものを使うのか?スベスベなものはなんなのか?なぜ上から水が降ってくるのか?不思議で奇妙なことばかり。
服やボタンなどは特に理解できていないことがよく表れていて、「袋みたいなものを頭からかぶる」という言葉通り、袋から足だけだしたオバケのような子どもたちが描き出されます。その後、ちゃんと手を袖から出し、顔もフードのようにして服っぽいビジュアルにあるのですが、問題なのはボタンです。
服の全体へ模様のようにボタンがたくさんついていて、ボタンの役割を果たさないボタンがたくさん。ボタンについてのよくわからなさが見事に表現された絵となっています。子どもたちも、

それ、服じゃない服じゃない!



ボタン、ぜんぜん違うよ!
と、ヘンテコな姿やビジュアルに大笑い。人間の生活への新解釈を思いきり楽しんでいるようでした。
靴のビジュアルもおもしろく、木で作った大きめな足の形をした靴はまるでアヒルの足のよう。靴から当たらずも遠からずといった絶妙な造形と機能性に癖になるおもしろさと妙な納得感を兼ね備えています。



確かに、靴だけど・・・
と、子どもたちもおもしろいけどツッコみきれない絶妙な反応が印象的でした。
この、とてもヘンテコだけど絶妙にリアリティがある、クマ目線で見た人間の生活のおもしろさが、この絵本のとてもおもしろいところです。
ぜひ、このヘンテコな生活を当たり前のようにしている子どもたちの姿を見てみてください。学校での様子も見応え抜群ですよ。
ヘンテコだけど共感できる人間の生活への感想
クマ目線から見るととてもヘンテコな人間の生活。でも、ヘンテコな中に共感できるところがたくさんあるのも、この絵本のとてもおもしろいところとなっています。
ボタンを付けるところでは洋服全体にボタンを付けるヘンテコな姿に、



ぜんぜん違うよ!
と言っていた子どもたち。ですがオーガストの、
「洋服を着たら、それ(ボタン)を小さな穴に通すんだ。いや難しいのなんのって。よくもあんなことができると思うよ。」
という言葉に共感の嵐。



ボタン難しいよね~



手が冷たいと全然入らないんだよ
と、実体験に基づくリアルなコメントをしていました。
他にもチャックが「上がったまま下がらなくなったリ、下がったまま上がらなくなったり」や、「1番厄介なのは靴紐だよ」という言葉にも、



あー、チャック噛むと困るよね~



わかる!私も靴紐結べない!
とやっぱり共感。クマ目線だからこそ、大人が忘れがちな人間の生活の中の難しさや厄介さを、子どもと同じ目線で語ってくれるのでしょう。
ヘンテコだけど、大いに共感できるからこそ、オーガストの語る人間の生活がとても魅力的なものに映り、テッドと一緒に夢中で耳を傾けてしまうのです。
この、子どもにとって共感できるところがたくさんあるオーガストによる人間の生活への感想も、この絵本のとても魅力的なところです。
改めて、自分たちって難しいことをしているんだなと、ボタンやチャックをできることが誇らしくなりますよ。
オーガストは本当に魔法が使えるの?
テッドにひとしきり人間の話を聞かせたあと、オーガストは人間になれる魔法の薬を作り始めます。
でも、作っていたのは本当に魔法の薬だったのか?そもそもオーガストは本当に魔法が使えるクマなのか?という疑問が出てくる最後の場面も、この絵本のとてもおもしろいところです。
オーガストが話をしたあと、考え込むテッド。オーガストは薬ができあがると、テッドに人間になる覚悟があるのかと問いかけます。このオーガストの問いかけに対し、真剣に考えた答えを伝えるテッド。このテッドの答えが子どもらしくも理知的なものになっていて、深く考えたことが伝わってくるのがとても素敵。
ですが、このテッドの答えに対するオーガストの対応も、すべてを見越してテッドがこの答えを出すとわかっていたもののように感じられる、オーガストの器の大きさや頭のよさがよくわかる素敵なところとなっているのです。
もしかしたら、姿を変える魔法などオーガストは使うことができないのかもしれません。ですが、テッドの「毎日、同じことばかりでつまらない」という子どもらしい言葉に、真剣にじっくり向き合いテッドにクマである自分という存在を深く考えるきっかけを作るオーガストの言葉はまるで魔法のようだと思います。
魔法が使えるかどうかはわかりませんが、その器の大きさと頭のよさはよくわかります。
この、本当に魔法の薬だったのかはわかりませんが、テッドとオーガストの仲のよさや、テッドのことをオーガストがどれだけ大切に思っているのかが伝わってくる物語の結末も、この絵本のとても素敵なところです。
子どもが深く考えるようになり、心が成長するというのは、この絵本のような出来事の繰り返しを通してなのでしょうね。
二言まとめ
クマの目線で見た人間の生活がヘンテコだけど、細かいところにとても共感できておもしろい。
テッドとオーガストのやり取りから、テッドの心の成長とオーガストの溢れる愛情を感じられる、笑いあり微笑みありな絵本です。
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