作:シャーロット=ゾロトウ 絵:ハワード=ノッツ 訳:まつおかきょうこ 出版:偕成社
お日様は沈んだあとどこにいくの?
風は吹いたあとどこにいくの?
そんな子どもの疑問に優しく答えてくれる絵本です。
終わるものなど1つもないのだと。
あらすじ
ある日の夕方。その日は大きくて真っ赤なお日様が、ずっと空を照らしている日でした。昼間は友だちと庭で遊び、疲れたら草の上に寝そべり体いっぱいにお日様の光を浴びる、そんな日です。とても楽しかったので、男の子は昼間がおしまいになってしまうのを残念に感じました。
夜になり、男の子が寝床に入る時間になるとお父さんがベランダで本を読んでくれ、お母さんが寝かしつけに来てくれます。
男の子はお母さんに聞きました。「どうしてお昼はおしまいになってしまうの?」と。するとお母さんは「夜が始められるようによ」と答えてくれます。空に浮かぶ月が夜の始まりで、暗く静かになって男の子が眠れるようにしてくれていると優しく教えてくれました。
男の子は、昼がおしまいになったらお日様はどこへ言ってしまうのかも聞きました。お母さんは答えます。昼はおしまいにならず、別のところでまた昼が始まり、お日様はそこを照らすのだと。お母さんは、おしまいになってしまうものはなにもなく、別の場所、別の形で始まるだけなのだと教えてくれました。
お母さんの話を聞いて、男の子は色々なことが気になり始めました。
風がやんだらどこへいくのか?
たんぽぽのふわふわはずっととんでいってどこへいくのか?
道はずっと行って見えなくなったらどこへいくのか?
山はてっぺんまで行ったらどこへいくのか?
波は海岸にぶつかり砕けたあとどこへいくのか?
雨がやんだ時、降った水はどこへいくのか?
雨を降らした雲は空の向こうへ行ったあとどこへいくのか?
汽車はトンネルに入ってからどうなるのか?
木の葉は落ちてしまったらどうなるのか?
新しく生まれた葉っぱも落ちてしまい、秋が終わったらどうなるのか?
冬が終わったらどうなるのか・・・
男の子の疑問に、お母さんは一つ一つ丁寧に答えてくれました。
お母さんはいったいどんな答えを返していったのでしょう?

おしまい!
『かぜはどこへいくの』の素敵なところ
- 子どもが抱く素朴で純粋な疑問へ丁寧に答えてくれる
- 繋がりを大切にするお母さんの優しくて余白がたくさんある答え
- 明日が楽しみになる物語の優しい終わり
子どもが抱く素朴で純粋な疑問へ丁寧に答えてくれる
この絵本のなにより嬉しいところは、子どもたちがふと感じる疑問に、一つ一つ丁寧に答えてもらえるところです。
子どもたちから日々出てくる「なんで?」「どうして?」という疑問。そんな日々の身近なものへ対する疑問を絵本の中の男の子が代弁してくれます。
昼が終わったらどうなるの?
風はどこへいくの?
山はてっぺんまで行ったらどうなるの?
次々と出てくる尽きない疑問に、普通なら「そろそろ寝なさい」と言われてしまいそうなものですが、この絵本ではお母さんがすべて丁寧に答えてくれるのです。子どもにとってこんなに幸せな時間はあるでしょうか?
普段は中々実現できない、時間を気にせず心ゆくまで質問できる夢のような空間がこの絵本の中に広がっているのです。絵本を見ているうち、自分が男の子と融合してお母さんとの幸せな時間を追体験しているのでしょう。

じゃあ、セミは死んだらどうなるの?



ゴミは捨てられたあとどうなるの?
など、自分が部屋のベッドにいるかのように、子どもたちからも素朴な疑問があがっていました。
この、子どもから溢れ出す「なんで?」「どうして?」というすべての疑問へ、時間を気にせず優しく丁寧に答えてくれる幸せで満たされた気持ちを味わえるのが、この絵本のとても素敵なところです。
繋がりを大切にするお母さんの優しくて余白がたくさんある答え
子どもから溢れ出す疑問へ丁寧に答えてくれるお母さん。そのお母さんの答えが自然の循環を大切にしたとても納得感があるものになっているのも、とても素敵なところです。
お母さんは、終わるものなどなにもなく、終わったものは別の場所・形でまた始まるのだと教えてくれます。
昼は別の場所で昼を始め
風は遠くのどこかで木を揺らし
山はてっぺんからまだ下って谷が始まる
終わりの先には始まりがあり、すべては繋がり続けているのだと。優しくわかりやすい言葉の中に、この世界の真理を感じることができる深い言葉。科学的に正しい事実でもなければ、子ども騙しでもない真摯な答え。そんな自分が語る言葉への真剣さを感じ取れるのです。
この絵本のお母さんには、子どもの想像力を妨げないようにしながらも世界の真実を伝えようとする誠実さと、小さな子が理解できる言葉で伝えられる聡明さがあり、こんな大人でありたいなと思わせられます。
また、真実でありつつも科学的に正しい答えではないからこそ、言葉の中に余白がたくさんあるのも素敵なところ。
「今頃、昼が始まっておきた人は、ぼくみたいに友だちと庭で遊ぶのかな?」
「今吹いている風は、どんな場所に行ってどんなものを揺らすんだろう?嵐に吸い込まれたりしないかな?」
など、科学的ではない詩的な言葉だからこそ、語られたものに想像力や物語性が働くのでしょう。終わったものの続きへ自然と思いが向かいます。
この、お母さんの子どもに対する優しくわかりやすくも誠実な答えに過ぎゆくもの続きが気になり、自分の身近にあるものがより愛おしくなるところも、この絵本のとても素敵なところです。
もし、あなたが同じ質問をされたらどんな風に答えますか?
明日が楽しみになる優しい終わり
たくさんの質問へ丁寧に答えていったお母さん。男の子はおしまいになるものがないことへ納得し、安心して質問が終わります。なんと満足感に満たされた終わりなのでしょう。見ている子どもたちもこんなにもたくさんの疑問に答えてもらい満足そうに物語の終わりを見守っています。
もちろん、おしまいになることはなに一つありません。質問がおしまいになり眠りにつくということは、次の始まりが待っているということ。この、1日のおしまいに次の始まりを予感させてくれるのも、この絵本らしいとても素敵なところです。
「夜がおしまいになれば、お日様がまた帰ってきて朝が始まり、どこかで夜が始まる」のだと、おやすみなさいの前に教えてくれるお母さん。なんとも不思議で神秘的で明日への期待が高まる言葉です。普段なら区切られて感じられる朝と夜、自分と他の人たちがなんだか混ざりあったように感じます。
自分の過ごしている夜をどこかの誰かが過ごし、また自分のところへ戻ってくる
今どこかで誰かが見上げるお日様が、夜が明けたら帰ってくる
なんて不思議で楽しい真実なのでしょう。明日はどんな日になるのかと、とても楽しみになってしまいます。
この、質問とおしゃべりの時間を終わらせる、明日へつながる優しく温かなおしまいの言葉も、この絵本のとても素敵なところです。
お母さんが普段から子どもに対してどんな向き合い方をしているのかがとても伝わってきて、自分もこうありたいと思わせてくれる締めくくりでした。
二言まとめ
子どもの「なんで?」「どうして?」という純粋な疑問に答える、お母さんの真剣で誠実な答えがとても温かく心地いい。
自然の繋がりを感じさせる答えに、身近なものがより大切に愛おしく思える詩的で哲学的な絵本です。
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