文:さねとうあきら 画:いのうえようすけ 出版:教育画劇
毎晩飴を買いに来る幽霊。
もう食べられない体なのに、一体何に使うのか。
少し不気味で、悲しくて、優しい昔話です。
あらすじ
昔、お寺の側に、小さな飴屋がありました。
このお店の黒飴は「一粒で寿命が一年のびる」と噂され大人気でした。
ある桜の花散る夜のこと。
真夜中に飴屋の戸を叩くものがありました。
飴屋の主人がくぐり戸を開けると、そこには女の人がいて、白い手を伸ばして来ました。
その手にはお金が一枚握られていて、黒飴が欲しいと言うのです。
飴屋の主人は遠方からはるばる来たのだろうと、女の人に飴を売ってあげました。
その女の人は、それから毎晩飴を買いに訪れました。
雨が降ろうが、風が騒ごうが。
そして、七晩めのことです。
いつも通り、女の人が飴を買いに来ましたが、お金が無くなってしまったと言いました。
それでも飴を欲しがります。
飴屋の主人は、熱心に通ってくれた女の人に、気前よく飴を渡してあげました。
その日、飴屋の主人は女の人を気付かれないよう追いかけていきました。
どこから来るのか、なんのために飴を毎晩買いに来ていたのか知りたくなったのです。
後をつけていくと、お寺の墓場で、女の人はふっと消えてしまったのです。
代わりに、どこからか赤ん坊の泣き声が。
なんとその声は、墓の底から聞こえて来るではありませんか。
それと一緒に、あの女の人の声も聞こえます。
墓の下で女の人は赤ん坊に飴をあげているようでした。
一体、なぜ墓の下から声が聞こえてくるのでしょう。
女の人と赤ん坊の正体とは・・・。
『こそだてゆうれい』の素敵なところ
- 不気味さの中に、悲しさや母の優しさが詰った物語
- 少し複雑なこの昔話を、かなりわかりやすく描いている
- 優しく温かい結末
この物語にはたくさんの気持ちが詰まっています。
毎晩、真夜中に飴を買いに来る女の人。
怖くはないけれど、どこか不気味な雰囲気をまとっています。
そして、墓場で消えるという、最大限の不気味さを感じさせます。
でも、墓の下から聞こえてくるのは赤ん坊の泣き声と、女の人の優しい声。
そこには幽霊も人間も関係ない、母親の子を思う想いや、一生懸命さを感じます。
怪談話だけれど、怖さや不気味さだけではない人生の奥深さが垣間見えます。
そんな複雑な気持ちが入り混じる物語。
その展開や感情の描写が複雑になりやすくもあります。
しかし、この絵本はかなりわかりやすく作られています。
描写もセリフも具体的。
飴屋の主人の感情なども、その都度わかりやすく加えられているので、どんな思いでそうしたのかなどが察しやすいのです。
含みや、想像の幅が狭い分わかりやすいので、年齢が低めの子に読むにはちょうどよいと思います。
さて、そんな物語の結末は、とても人情味のある優しくて、温かいものです。
ただ、これは偶然の結末ではなく、登場人物全員の優しさや一生懸命さが一つに重なって起きたものだと言うのが本当に素敵なのです。
少し不気味で、悲しくて、優しい怪談話です。
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