文:富安陽子 絵:大島妙子 出版:福音館書店
毎日頑張っているサラリーマン。
子どもにはわからない苦労だってたくさんあるんです。
実はそれは人間も鬼も一緒です。
では、鬼のサラリーマンの一日をのぞいてみましょう。
あらすじ
地獄勤めのサラリーマン、オニガワラ・ケン。
奥さんに、子もが二人。
4人家族の大黒柱です。
今朝も元気に起きて、出勤の準備をしています。
愛妻弁当を渡されて、向かうのはバス停です。
そこでは青鬼、黄鬼、緑鬼。
他の鬼たちや妖怪たちもバスを待っています。
バスがやってくると、車内は満員。
満員のバスに揺られ、オニガワラは出勤します。
地獄へ着いたら、まずは閻魔大王に挨拶します。
そして、その日の当番を発表されます。
今日の当番は血の池地獄の監視でした。
ロッカールームで作業着に着替え、血の池地獄に向かいます。
血の池地獄では、亡者が浮いたり泳いだり、まるでプール。
亡者が飛び込んだり、浮き輪を持ち込んだりしたら注意するのが監視員の仕事です。
そうこうしているうちに昼食の時間。
愛妻弁当を食べてお腹いっぱい。
そして、満腹になったオニガワラは仕事中にうとうと・・・。
眠りに落ちてしまいました。
「ハッ」と起きると、血の池地獄大騒ぎ。
なんと、極楽から糸が一本ぶら下がり、亡者がそれを登って極楽へ行こうとしているのでした。
止めても登る亡者たち。
みんな極楽へ行ってしまうのでしょうか。
ミスをしてしまったオニガワラ。
サラリーマンとしての進退やいかに・・・。
『オニのサラリーマン』の素敵なところ
- 地獄がありふれた日常に見えてくる
- 言葉選びのセンスがすごい
- お父さんやお母さんも大変なんだなと気付く
恐ろしくて、絶対に行きたくない地獄。
しかし、この絵本にかかると、ありふれた場所に思えてきます。
血の池地獄はまるで市民プールだし、そこで泳ぐ亡者も楽しそう。
地獄の獄吏は思っているより庶民的で、家に待つ家族のために働いています。
こんな地獄ならちょっと遊びに行ってみたいなと思ってしまうほどです。
そんな地獄を日常に見せるのに欠かせないのは、その秀逸な言葉選びにあるのだと思います。
亡者への注意は、
「飛び込み禁止って、言うてるやろ!」
「こら、誰や?ゴムボート持って来た奴は」
と、まるでプールの監視員。
極楽へ昇るのを止める時も、
「極楽なんか行っても、ひまなだけやぞお!」
と、予想外の声掛けの仕方。
地獄は苦しいという概念は微塵もありません。
だからこそ、違和感なくサラリーマンと会社感が出るのでしょう。
そんなオニガワラやそこで働く人の姿を見ていると、自然と自分のお父さん、お母さんにも目が向きます。
「いつも、仕事仕事って言って・・・」
「私ばっかり、いっつも保育園・・・」
「大人ばっかりずるい!」
と思っている子も、
「仕事も結構大変なんだな」
「お父さんと、お母さんも頑張ってるんだな」
と視野が広がるきっかけになることでしょう。
鬼と地獄を通して、リアルにサラリーマンの大変さを知るという不思議な絵本です。
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