文:クゲユウジ 絵:岡村優太 出版:高陵社書店
誰もが知っている桃太郎。
では、その桃太郎がどんな気持ちで鬼退治を決心し、どんな気持ちで鬼に立ち向かったのか。
それを知っている人はいるでしょうか。
この絵本は、桃太郎の一人称視点で語られる桃太郎です。
あらすじ
ぼくは生まれる前、大きな桃の中にいました。
外からは水の音、どこかへ流されているみたい。
この先何が待っているのかと、楽しみと心配がぼくの胸をドキドキさせました。
桃の中ですやすや寝ていると、誰かの声がしました。
その声の主は、桃を運んでいるみたいです。
その時、ぼくは感じたのです。
「もうすぐ生まれるんだ!」と。
桃が割れ、ありったけの声で「ほんぎゃー!」と泣きました。
おじいさんとおばあさんはびっくりしていましたが、びっくりし終わるとかわるがわる抱っこしてくれました。
抱っこされるとすぐに眠くなってしまいました。
その後、ご飯をたくさん食べ、どんどん大きく力持ちになりました。
そんなある日、都から来た薬売りが、「都に鬼が現れるようになったから早く逃げろ」とおじいさん、おばあさんに言いました。
おじいさんとおばあさんは心配そうでした。
その夜、ぼくは縁側で月を眺めて考えていました。
おじいさんとおばあさんの青ざめた顔、鬼はどんな顔なんだろう、強いのだろうか・・・。
次の朝、ぼくは思い切って二人に言いました。
「鬼ヶ島に行き、鬼退治をします!」
こうして鬼退治に行くことになった桃太郎。
果たして無事に鬼を退治することが出来るのでしょうか。
長い旅や、鬼を前にした時に、桃太郎の感じていたこととは。
『桃太郎が語る桃太郎』の素敵なところ
- 昔話では語られない、登場人物の心理描写がすごい
- 物語の細部が描き込まれていることによる臨場感と没入感
- 他者の視点に立つきっかけになる
この絵本は桃太郎の視点で語られます。
生まれる前の桃の中で感じた楽しみと心配。
おじいさんとおばあさんにどれだけ愛されてきたか。
鬼退治を決めるのにどれだけいろんなことを考え悩んだか。
一人鬼退治に出かけた後の、心細さや、鬼と対峙した時の恐怖まで、包み隠さず描かれます。
無敵のヒーローと思われていた桃太郎も、一人の人間だと言うことを思い知らされます。
それと同時に、桃太郎の視点を通して他の登場人物の心理描写も描かれているのが素敵なところ。
おじいさん、おばあさんがどれだけ桃太郎を愛していたか。
鬼が出ると聞いた時に、どれだけ不安に感じたか。
犬がどれくらい桃太郎を心配したか。
猿のほっとけない性格など。
他の登場人物もとても魅力的になるのです。
さらに桃太郎のお話を魅力的にしてくれるのが、本編では語られない細かい隙間の物語です。
桃太郎が川を流れている時。
生まれてからの成長過程。
鬼ヶ島への道中。
そして、鬼と対峙する場面から、おじいさん、おばあさんの待つ家までの帰路まで。
そこでどんなことがあったのか、どんな話をしたのかまで細かく描かれているのです。
これにより、自分が桃太郎になったかのような没入感や臨場感を感じるのです。
そんな、誰もが知っている桃太郎になりきる体験は、他者の視点に立って、どんな気持ちだったのかを考えるきっかけにもなります。
誰もが知っている桃太郎だからこそ、気持ちまで考えた時に新たな発見や、意外性、面白さを感じるのだと思います。
誰もが知っている桃太郎。
でも、誰も知らない桃太郎のお話がここにはあります。
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