文:柴田ケイコ 絵:クゲユウジ 出版:高陵社書店
誰もが知っているシンデレラのお話。
でも、シンデレラがその時感じていた気持ちや思いまでは、知らないかもしれません。
そんな気持ちや思いまで全て詰め込んだ、シンデレラの目線によるシンデレラのお話です。
あらすじ
私は深呼吸をし、なるべく大きな笑顔で玄関の扉を思い切って開けました。
そこには新しいお母様と2人のお姉様がいました。
新しいお母様のヒンヤリと乾いた声を聞き、私の胸には不安の雨雲が広がっていきました。
「いつも笑顔でいよう」
そう決めていましたが、お母様の言葉は「なによ?ヘラヘラ笑って」と決まって尖っていました。
毎日家の掃除を命じられ、薄汚れた私を見て、お姉様は「シンデレラ」と呼ぶようになりました。
「シンデレラ」とは「灰まみれ」という意味です。
一日が終わると、かび臭い屋根裏部屋に帰り、いつも涙をこぼしました。
さみしさと惨めさが混じり合い、心の隅々を染めていました。
ある晩、お城で舞踏会が開かれるので、おめかしの手伝いを命じられました。
お姉様の長い髪を編み上げながら、本当のお母様の髪を編んで差し上げた日のことを思い出していました。
お母様がシンデレラに「大きくなったら、一緒に舞踏会に行きましょうね」と言ってくれた時のことを。
「いってらっしゃい」
私はみんなをいつもの笑顔で見送りました。
ずっと向うに見えるお城は両手をかざしたくなるくらい、温かな光に包まれていました。
「私も・・・私もあそこに行きたい・・・」
思わず本音がこぼれたその瞬間でした。
目の前に不思議な輝きが!
一体シンデレラに何が起こったのでしょう。
『シンデレラが語るシンデレラ』の素敵なところ
- 徹底的な一人称視点の文章と絵
- シンデレラの心の機微がとてもよくわかる心理描写
- シンデレラが振り絞った勇気
この絵本の特徴はなんと言っても、一人称視点に徹底的にこだわった作りにあるでしょう。
文章はもちろん一人称視点で語られ、他の登場人物の心理描写などは出てきません。
シンデレラの思ったこと、見聞きしたことのみで語られます。
また、絵も一人称視点を徹底しています。
自分の姿で見えるのは、手と足ぐらい。
それ故にとても臨場感があり、ドアを開ければ、本当に自分がドアを開けたような感覚に。
服がドレスになったあと鏡を見る時には、読み手もシンデレラ同様に、鏡を見たタイミングで初めてドレスを目にします。
その時の子どもたちの反応はまさにシンデレラとシンクロしたもの。
「わ~」「素敵!」
と、シンデレラと同じ表情をしていることでしょう。
また、シンデレラの心理描写もわかりやすいだけでなく、文学的で美しく表現されているのも素敵なところ。
お父様が亡くなった時には「夜空から星が残らず消えたような気持ち」
魔法使いのお婆さんが出てきたときには「だれ?魔法使い?本当?どうして?色んなハテナが一度にのどに押し寄せて」
と言ったように、どんな気持ちだったのかが、手に取るようにわかる文章で描かれ、文学的な表現もとてもイメージしやすいものになっているのです。
そんなシンデレラですが、この絵本のシンデレラは最後に自分に意思で王子様との結婚をつかみ取ります。
このシンデレラは王子様に見つけてもらい、ガラスの靴を履いてみるわけではありません。
勇気をもって、自分からガラスの靴を履きに来るのです。
その姿はこれまでの過程でシンデレラとシンクロしている子どもたちにも、勇気をくれます。
シンデレラの「まって!」の一言に、子どもたちも息を飲み、その後の結末を見届けます。
みんな結末を知っているのに、まるで初めて見る物語のように真剣な顔をしている子どもたちがとても印象的でした。
徹底的に一人称視点にこだわることで、見事に子どもとシンデレラをシンクロさせる。
まさに人生を追体験できる絵本です。
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