作:あべ弘士 出版:偕成社
夜明けのしんとした時間。
凛とした空気。
そして、世界を照らし出す黄金色の輝き。
そのすべてを本物のように感じられる絵本です。
あらすじ
ある日、私はじいさんと舟に乗っていた。
森の中を縫うように川が流れている。
季節は「黄金の9月」。
じいさんは村一番の漁師で、その日も毛皮を町へ売りに行くところだった。
夕闇が迫り、岩山に舟をつけた。
そこは漁師たちの祈りの聖地。
じいさんは酒を捧げて祈り始める。
火をおこし、夕ご飯を食べる。
じいさんは酒を飲みながら、話し始めた。
ケガをした虎の話や、毛皮が凍った氷のイノシシの話などを。
夜が更けて、じいさんはいびきをかき始めた。
私も草の上に横になる。
見上げると、満天の星を天の川が横切っていた。
目を覚ますと、あたり一面霧だった。
川で顔を洗い、朝ごはんを食べると、舟をこぎ出した。
舟は川を進んでいく。
やがて、霧が流れ、陽の光がみるみるあふれてきた。
その時だ・・・。
『よあけ』の素敵なところ
- 描き出す自然の美しさと力強さ
- 私を通して大自然とその中で生きる猟師を体験できる
- 一面の霧から朝焼けへの移り変わり
この絵本の大きな魅力は、美しく、鮮やかで、力強い自然の描写だと思います。
森の木々や川の水、空の星や雲、動物たち。
そのすべてが美しく、壮大で、幻想的なのです。
特に、私の目線でページいっぱいに描き出される満点の星と天の川。
朝焼けに燃える雲や森。
じいさんの話に出てくる動物や、森に暮らす生き物の姿などは、どれも息を飲むほどです。
そんな自然の描写のためか、見ている人は本当に自然の中にいるような気持ちになってきます。
最初は読者の目線で見送っていた舟に、いつの間にか乗り込んでいるのです。
じいさんの話を「私」のようにワクワクして聞いている時には、完全に一体化していることでしょう。
「私」と一緒に「もっと聞きたい」とじいさんにせがんでいるのですから。
じいさんがいびきをかき始め、自分も横になると、そこには満点の星空が広がります。
「私」と同じように子どもたちもうっとりと見渡します。
「すご~い・・・」「星がいっぱいだ~」とまるでキャンプで星空を見たような表情と反応。
きっと、子どもたちの目には本当の星空が広がっているんだろうなと感じました。
さて、夜が明けると、一面の霧に覆われています。
じいさんの姿も周囲の様子も霧がかって、白い靄にしか見えません。
辺り一面、霧が立ち込める中、舟を進めていきます。
しばらくすると、ついに陽が差し始め、霧が晴れていきます。
その時の世界に色がついていく感覚は、言葉では言い表せないほどの美しさと壮大さです。
暗かった世界が、朝焼けとともに放射状に色づいていく時のような感覚とでも言いましょうか。
心から「きれい・・・」と感じる体験が絵本を通して起こるのです。
子どもたちの反応もまさにそのようなもの。
まさに言葉にならない言葉です。
本当の大自然の中でその様々な表情に触れる。
そんな体験ができる、美しさ、壮大さ、力強さが詰った絵本です。
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