文:さねとうあきら 画:かたやまけん 出版:教育画劇
ある日、船の上で寝ていると、かっぱに手紙を渡された。
その内容はなんとも恐ろしいものだった。
知恵を絞って、この難局を乗り越える爽快な逆転劇の昔話です。
あらすじ
昔、この辺りにはかっぱがたくさん住んでいた。
ある日、漁師のぎへいさんが船底で眠っていたら、「起きてくだせい」と声がした。
ぎへいさんが目を覚ますと、その声は川岸の二つの影からだった。
二つの影は「この船は海まで行きやすか?」と聞いてくる。
ぎへいさんが、海へ行くことを告げると、二つの影は手紙を渡してきて言った。
「海辺のくろう岩のところに届けて欲しい。くろべえどんと3回言って出てきた人に渡してほしい」と。
ぎへいさんは気軽に引き受けた。
しかし、次の日。
ぎへいさんはその手紙を見て驚いた。
何にも書いていない白い紙だったのだ。
それはかっぱの手紙である証だった。
かっぱの手紙は川の水につけると文字が浮かび上がってくる。
ぎへいさんが手紙の内容を読んでみると、大変なことが書いてあった。
「この人は川では食えん。海で食え」と。
ぎへいさんは「食われちゃたまらん」と、大慌てでかぼちゃの茎をちぎって、その汁で手紙を書き直した。
「この人は川でお世話になった。海でお礼してくれ」
それから、海べりにそびえるくろう岩へ船をこぎ、「くろべえどん」と三回呼んだ。
すると、岩の影からひげむくじゃらの大男がのっそりと現れたではないか。
ぎへいさんは恐々手紙を渡した。
すると、その手紙を読んで、くろべえどんが「間違いないな?」と聞いてきた。
ぎへいさんは「間違いない」と答えた。
ぎへいさんの作戦はくろべえどんに通用するのでしょうか・・・。
『かっぱのてがみ』の素敵なところ
- ぎへいさんとともに味わう怖さとドキドキ
- 怖すぎるくろべえどん
- 昔話ならではの知恵を使った爽快な逆転劇
この絵本の面白いところは、かっぱからの手紙を読んだぎへいさんのドキドキが、子どもとリンクするところです。
かっぱが自分を取って食おうとしていることを知ったぎへいさん。
その慌てっぷりと、恐怖がその文章ににじみ出てきます。
それを見ている子どもたちも「大変!」「海に行ったら食べられちゃう!」と大慌て。
かっぱの手紙を書き直すぎへいさんを見て、「これなら大丈夫かも!」と希望を持つなど、もう心はぎへいさんと一つです。
だからこそ、くろう岩に行く時の「ばれて食われるかもしれない」というドキドキ感や怖さも一緒に味わえるのです。
さて、手紙を渡す相手のくろべえどんはまさかの異様な大男。
真っ黒な体、ひげむくじゃらの顔に、濡れたわかめをすっぽり頭に被っています。
それが大岩の影からのっそり現れるのだから怖すぎます・・・。
そんなくろべえどんとのやり取りは背筋が凍り、手に汗握ります。
だって、ばれたら抵抗なんて出来なさそうな相手ですから。
そして迎える結末は、幻想的な光景と、まさに昔話という「めでたしめでたし」がぴったりなものでした。
この普通の人が知恵で窮地を乗り越えるという、ハラハラドキドキ感はわかりやすくも魅力的だと思います。
ぎへいさんの丁寧な心理描写を通して、その気持ちがリンクする。
だからこそ、ドキドキ感と「めでたしめでたし」を心から味わえる昔話です。
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