文:さねとうあきら 画:いのうえようすけ 出版:教育画劇
ツルツル、ヌルヌル滑って掴みどころがないウナギ。
掴んでは滑って、掴んでは滑って・・・。
追いかけ続けていると、いつの間にか空まで追いかけ、気付けば天の上まで来てしまったのでした。
あらすじ
ある男、もくべえが、かば焼きを作るつもりでウナギを掴んだら、にゅるにゅる逃げ出した。
ウナギを手繰っていくと、玄関を出て、ついには屋根の上まで。
さらにウナギは空に昇り、もくべえを連れたまま、天を目指して進みだした。
ウナギとともに黒雲に突っ込んだもくべえは、稲光に目がくらみ、真っ逆さまに落ちてしまった。
気がついたら、見知らぬお社の前に倒れていた。
もくべえは通りがかりの親切な人に助け起こされ、ここが天の川神社だということを教えてもらった。
しかも、もくべえのいた大阪ではなく、天の上だと言う。
親切な人に「せっかくだから見物して戻ったらいい」と言われ、のんきなもくべえはそうすることにした。
あたりを見回すと、星たちがせわしなく働いている。
親切な人に聞いてみると、年に一度の天の川祭りがあるから、あちこちの星が手伝いに来ているのだと言う。
もくべえが親切な人に、「あなたはどこの星か?」と尋ねると、なんと「雷のごろぞう」だと答えた。
雷は普段は人間の姿をしているが、神輿を担ぐ時には本当の姿に戻ると言う。
ごろぞうはもくべえに「せっかくなら、雷の格好をして見物しないか」と提案した。
応じたもくべえは、ごろぞうの家で準備をすることに。
ごろぞうの家に行く途中、神社の裏手にしめ縄を張った古い井戸があった。
井戸のことをごろぞうに訪ねてみると、「昔、仙人が落ちた井戸」なので近づかない方がいいそうだ。
しかも、大ナマズやドジョウもいるという。
もくべえが「ウナギもいるか?」と尋ねると、「食いつきそうなウナギがいる」と言われ、もくべえは気味悪がって井戸を避けて通った。
もくべえはごろぞうの家で雷の格好にしてもらうと、神輿を見物しにいった。
そこではたくさんの雷がたくさんの神輿を担いでいた。
神輿がぶつかり合うたび、稲光が走り、あたり一面明るくなった。
その光を見てもくべえはウナギに掴まって見た稲光を思い出し、「これはウナギにはかられているのではないか?」と疑い始めた。
そう考えると、あの井戸が怪しい。
あの井戸にウナギは逃げ込んでいるのではないか?
もくべえが井戸を覗いてみると、中かかなにやら光がさしている。
金銀財宝かと思った時、もくべえは井戸に落っこちてしまった。
仙人でも落ちて帰ってこれなかった井戸。
もくべえはどうなってしまうのでしょう。
『もくべえのうなぎのぼり』の素敵なところ
- 掴み損ね続け、空まで登ってしまうという発想
- 不思議なことがたくさんの天の上
- どこまでが現実で、どこからが夢の世界か曖昧な不思議さ
ウナギやドジョウを掴み損ねて、「おっとっと」と宙を掴もうとする姿は目に浮かびます。
しかし、それを追いかけ続けた、まさか空まで追いかけていってしまうとは誰も思いません。
そんなまさかが起こるのがこの絵本。
玄関を出て、屋根に登ると「こんなとこまで来ちゃった」と驚く子どもたち。
でも、驚くのはまだ早い。
そこからまさかの空へ昇っていき、焦るもくべえ。
焦る子どもたち。
「手を離さないと!」
「帰れなくなっちゃう!」と必死で訴えますが、無情にも黒雲に突っ込んでしまうのでした。
そんなこんなでたどり着いた天の上。
そこでは星たちが働いていたり、雷が人間の姿をしていたり、お祭りがあったりと不思議なことが盛りだくさんです。
天の上のことをごろぞうが教えてくれるたび。
「そうなんだ~」と素直に聞く子どもたち。
それらの不思議の極めつけが、神輿と神輿のぶつかり合い。
その迫力は凄まじく、本当に目の前で稲光が舞い散っているようです。
だけれど、このお話の一番不思議なのはウナギの天昇りでも、天の上の話でもありませんでした。
それが明かされるのが最後の場面。
そう、まかのどんでん返しがあったのです。
そのどんでん返しも、よく考えると不思議なところが盛り沢山。
それを見てから読み直すと、「ここは夢だったのかな?」「全部本当だったんじゃない?」と様々な意見が出ます。
現実の世界と、夢の世界の境界がどれだけ考えてもはっきりとしないのです。
一風変わった旅行記かと思きや、読んだ後に現実と夢の境が曖昧になる。
なんだか不思議な感覚にさせてくれる昔話絵本です。
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