作:かこさとし 出版:復刊ドットコム
怖い怖い河童に天狗に雷様。
この3人にいっぺんに目をつけられてしまったら・・・。
そんなピンチからの、爽快な一発逆転劇が始まります。
あらすじ
昔々あるところに、大きな山があり、その麓には沼があり、さらに沼の側には大きな杉の木が立っていました。
そして、沼にはかっぱどん、杉の木にはてんぐどん、山の上の雲にはかみなりどんが住んでいて、山で働く人に悪さをして困らせていたのです。
ある日のこと、麓から炭焼きのとおべえさんが山に登ってきました。
とおべえさんは奥さんを亡くし、奥さんの残した子どものとうへいと暮らしているのでした。
とおべえさんが沼の近くを通りかかると、沼からかっぱどんが現れました。
かっぱどんは「奥さんが昼寝の邪魔をしていたから、その子どものお尻を明日の昼までに差し出せ」と言うのです。
とおべえさんが困りながらとぼとぼ歩いていると、杉の木の所まで来ました。
すると、杉の木の上からてんぐどんに呼び止められました。
てんぐどんは「奥さんが大事にしていたならの木を薪にして燃やしてしまったから、その子どものほっぺたを明日の昼までに差し出せ」と言ってきたのです。
とおべえさんが困りながらしおしおと歩いていて、山の上まで来るとかみなりどんに呼び止められました。
かみなりどんは「奥さんが自分の降らせた夕立を悪い雨だと言ったから、その子どものおへそを明日の昼までに差し出せ」と言ってくるのでした。
とうべえさんは困りながらしょんぼり家へ帰ってきました。
元気のないとうべえさんを見て、息子のとうへいちゃんが心配そうに声を掛けます。
訳を聞いたとうへいちゃん。
自信満々に悪い三人を懲らしめてやると言い、その日はぐっすりと眠ってしまいました。
とうへいちゃんはどうやって、怖い三人の悪者を懲らしめようというのでしょうか?
『かっぱとてんぐとかみなりどん』の素敵なところ
- わかりやすく気持ちのいい繰り返しと決まり文句
- 気持ちのいいほど悪くて自分勝手な3人
- 相手の性格を活かしたパズルのような逆転劇
この絵本は長めでしっかりと語られる昔話絵本です。
とおべえさんの心境や、悪い3人とのやり取りも細かい所まで描かれます。
しかし、そこに冗長さを感じさせないの素敵なところ。
それはとおべえさんが悪者に会う→困って歩く→悪者に会うというわかりやすい繰り返しにあると思います。
これにより、「そろそろ次の悪者が出てくるぞ」というワクワク感と、「次はなんて言われるんだろう」というドキドキ感で次のページへの期待感が高まるのです。
また、その中に使われる決まり文句も、子どもの期待感や臨場感を盛り上げます。
悪者が登場する時の「すみやきとおべえ、ちょっと待て」
悪者がいなくなる時の「かかあよりもっとひどい目に合わせるぞ。いいな、とおべえー」
とべえさんが困って歩いていく時の「えっちらこまったおっちさら、えっちらよわったおっちらさ」という歌など、要所要所に埋め込まれているのです。
さて、この絵本の中心となるかっぱとてんぐとかみなりどん。
この3人が気持ちのいいくらい悪いことと言ったらありません。
亡くなった奥さんへの言いがかりから、その子どもへの要求まで自分勝手そのもの。
そこに慈悲はないのです。
だからこそ、最後の逆転劇が爽快で痛快なものになるのです。
さらに、その逆転劇は見事に3人の性格を利用したものでした。
とうへいちゃんが3人と交渉をしていく場面ではみんなドキドキ。
「こんなこと言って大丈夫かな・・・?」
「えー、明日どうなっちゃうの!?」
そして、約束の時間になり、パズルのピースがぴったりはまるように最後の場面を迎えます。
これには子どもたちも「とうへいちゃんすげー!」というストレートな感想しか出ない様子。
その知恵と勇気に感動しているようでした。
最後の場面の演出もド派手なのがより爽快感を盛り上げてくれます。
自分勝手な悪者を知恵を絞って懲らしめる逆転劇。
しっかりどっしりとしたお話を読み切ったという、満足感のある長めの昔話です。
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