ゆきおんな(4歳~)

絵本

文:川村たかし 画:宇野亞喜良 出版:教育画劇

雪の降る日に読みたくなる。

背筋がぞくっとするけれど、読んだ後に物悲しさも感じる怪談。

それは、恐ろしくも美しい雪女のお話です・・・。

あらすじ

昔、山のふもとに鉄砲うちの親子がいた。

父はもさく、息子はみのきちという。

もさくは腕の良い猟師だった。

雪の深いある年の冬のこと。

二人は獲物を追っていると大雪に見舞われた。

そこで猟をやめ、近くの山小屋に避難することに。

山小屋で火を焚くと、いつの間にか二人は眠ってしまった。

どれほど経っただろう。

みのきちはぞくっとした寒さで目を覚ました。

見ると、小屋の隅に美しい娘が一人立っていた。

娘はみのきちに顔を近づけると、笑いながら言った。

「お前、気に入ったぞ」と。

今度はもさくの方へ行き、娘は凍った息を吹きかけた。

すると、もさくはぴくりとも動かなくなった。

娘はみのきちを振り返り言う。

「お前が気に入ったから、今日の所はなにもせん。だが、今見たことを人に話せば命はない」と。

娘はたちまち消え失せ、もさくは死んでいた。

それから一年がたった。

その日はまた大雪だった。

みのきちの家に誰かが訪ねてきたのだ。

出てみると、娘が一人立っていた。

その娘は「道に迷ったので一晩泊めてくれ」という。

みのきちが弱っている娘の世話をしているうち、娘はみのきちの嫁になった。

二人の間には子どもも出来、しあわせに暮らしていた。

ところがやっぱり大雪の晩。

みのきちはもさくが死んだときのことを、嫁に話し出したのだ。

それを聞いた嫁の姿は雪女へと変わっていた。

ついに雪女のことを人に話してしまったみのきち。

約束通り、命を取られてしまうのでしょうか?

『ゆきおんな』の素敵なところ

  • 静かで恐ろしい雪女の恐怖
  • 現代風の美しさで描かれる雪女
  • 重い重い「やくそく」と物悲しい最後

この絵本の主役である雪女。

妖怪などの類ではありますが、他の怪異とは少し違います。

それは恐ろしいほどの静かさです。

雪の降り積もるしんとした夜。

スーッと現れ、ふーっと静かに息を吹きかけると、相手は死んでいる・・・。

静かに忍び寄る恐怖。

それが雪女特有のドキドキ感と、息を吞むような恐ろしさを醸し出しているのでしょう。

見ている子どもたちは縮こまり、唾をのむ音が聞こえてくるくらい静かです。

まるで、声を出せば気付かれてしまうとでも言うように。

そんな雪女は恐ろしいだけでなく、言葉にならないほどの美しさも持っています。

ですが、その中でもこの絵本の雪女は少し毛色が違います。

言うなれば、現代風とでも言うのでしょうか。

一般的な雪女の美しさは、儚げな女性の絵で描かれていると思います。

しかし、この絵本の雪女には美しさだけでなく力強さも感じられるのです。

きっと現代の人でも魅了される美しさだなのではないでしょうか。

さて、物語の最初に交わされる「人に言ってはいけない」という約束。

これが物語中、ずっと重くのしかかり続けます。

そして、いよいよそれを言ってしまった時、悲劇は起こります。

でも、そこには雪女の葛藤とその決断が悲しいほどに内包されていました。

言葉にすれば数行ですが、そこには本当に多くの想いがあっただろう結末。

そこには雪女として、女性として、母として・・・。

色々なものが垣間見えるようです。

子どもたちも、「なんで言っちゃったの!」「雪女かわいそう!」と、雪女の側に立った意見が目立つのも面白いところです。

美しさ、恐ろしさ、物悲しさ・・・本当に色々なものを内包した物語。

それを現代風の絵で美しく、力強く描かれた怪談絵本です。

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