作:シゲタサヤカ 出版:教育画劇
もし、謎の物体を発見したら・・・。
もし、それが美味しすぎて全部食べてしまったら・・・。
実はそれが帽子で、持ち主が訪ねてきたら・・・。
どうしよう・・・。
あらすじ
あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある朝、おばあさんが木に引っかかっている奇妙なものを見つけました。
おじいさんに頼み、奇妙なものを見に行ってもらうと、こげ茶色で、つやつやしてベトベトしています。
ひとまず木からおろし、家へ持って帰ってくることに。
それは丸くて、平べったくて、向こうがうっすら透けて見えるものでした。
試しに匂いを嗅いでみると、ちょっぴり甘そうな匂い。
思い切って二人はなめてみることに・・・。
すると、なんと美味しいことでしょう。
二人はあまりお美味しさにまずは端っこを食べ・・・。
お昼にももう少し食べ・・・。
夜にはたらふく食べました。
もう残りはあと少しです。
それは翌日の食べることにし、幸せ気分で布団に入った二人。
しかし、夜遅くに扉をたたく音がしました。
開けてみると、そこにいたのは大きなプリン。
しかし、頭にカラメルが乗っていません。
プリンはおじいさんとおばあさんに、丸くて茶色の帽子を見かけなかったか聞いてきました。
二人はハッとしました。
それは朝見つけた奇妙な物体。
もうほとんど食べてしまっていたのです。
悲しそうなプリンを前に、本当のことなんて言えません。
家じゅうの帽子を引っ張り出し、他の帽子にしてもらおうとしました。
しかし、プリンはついにこらえきれず泣き出してしまいました。
帽子をなくした自分を責め泣くプリン。
おじいさんとおばあさんの自責の念はもう限界です。
なにかよい解決法はあるのでしょうか・・・。
『おいしいぼうし』の素敵なところ
- おじいさんとおばあさんの自然体なかけ合い
- お互いに気を遣う何とも言えない空気感
- プリンの可愛すぎる表情と仕草
この絵本のおじいさんとおばあさん。
絵本とは思えないくらい自然体で現実にいるかのような会話をします。
寝ているおじいさんを起こし、奇妙な物体を見に行かせるおばあさん。
質感などをぶつぶつ言いながら分析するおじいさん。
全然返事がないので「きいてるのー?」と、しびれを切らすおばあさん。
奇妙な物体を木から降ろしてくれというおばあさんの無茶ぶりに、「無茶なこと言っとるなぁ」とぼやくおじいさん・・・。
といったように、会話が絵本的というより、現実世界のおじいちゃんおばあちゃんのようなのです。
そして、この独特のやり取りがこの絵本ならではの空気感やペースを生んでいるのは間違いありません。
さて、奇妙な物体の美味しさに気付き、幸せだった時間は終わりを迎えます。
プリンの帽子だと気付き気まずい二人。
なんとかプリンを励まします。
ですがプリンの方も、おじいさんとおばあさんが食べてしまったとは知らないので、「二人がこんなによくしてくれてるのに自分は・・・」と、より涙が溢れてきます。
それぞれ気まずい空気感。
このなんとも言えないすれ違い感が、この絵本の魅力の一つだと思います。
お互いに気まずい。
見ている子どもも気まずい。
中々、味わえない空気感です。
そんな空気感とは裏腹に、常になんとも言えない可愛さを放ち続けているのがプリン。
空気感は気まずい。
でも、プリンはかわいい。
このシュール感がもしかしたら、一番素敵なところなのではないかと思うほど。
涙を我慢するプリン、泣くプリン、泣きながら寝そべるプリン、照れるプリン、笑うプリン・・・。
その仕草、表情、フォルムが反則的にかわいく癖になるのです。
中々絵本では体験できない気まずさ。
圧倒的にかわいいプリン。
その両方を堪能できるなんだか色々癖になる絵本です。
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