文:川村たかし 画:梶山俊夫 出版:教育画劇
腹違いの姉妹、こめぶきとあわぶき。
母に可愛がられるあわぶきと、いじめられるこめぶき。
そんな二人の歩む道には、山あり谷ありやまんばあり。
一体どうなることでしょう。
あらすじ
昔、こめぶきとあわぶきという姉妹がいた。
こめぶきは亡くなった前の母さんの子。
あわぶきは今の母さんの連れてきた子だった。
今の母さんはあわぶきばかり大事にしていた。
ある日のこと。
母さんが「村祭りが近いので栗を拾いに行ってこい」と、二人を栗拾いに行かせた。
こめぶきには穴の空いた袋、あわぶきには穴を繕った袋を持たせて。
栗を拾っている間に日が暮れて、二人は道に迷ってしまった。
そんな中一軒の家を見つけ、泊めてくれるよう頼むと、そこはやまんばの家だった。
やまんばは「泊めてやりたいが、もうすぐせがれの鬼が帰ってくる。そうしたら食べられてしまう」と言う。
二人はやまんばの着物の裾に隠れて、家に入れてもらうことになった。
夜更けになり、せがれが家に帰ってきた。
「人間の臭いがする」と言ってきたが、やまんばがなんとかごまかしてくれ、せがれはまた食べ物を探しに出かけていった。
ほっと一息つく間もなく、今度はやまんばが舌なめずりしながら二人を見た。
やまんばも二人を食べようというのだ。
しかし、食べる前にやまんばは言った。
「食う前に、体に着いたしらみを取ってくれ」と。
あわぶきは怖くて逃げだしたが、こめぶきは火箸でつまみ、やまんばのしらみを取ってあげた。
すると、やまんばは二人を食べずに、土産をくれた。
こめぶきには小さな箱。
あわぶきには鍋。
二人は一晩泊まり、朝になるとやまんばの家を出た。
だが、しばらく行くと、せがれの鬼に見つかった。
追いかけてくる鬼たちに、あわぶきが「大きな山よ出ろ」と鍋を投げると大きな山が。
「大きな川よ出ろ」と言うと大きな川が出て、なんとか二人は逃げ帰った。
それからしばらくして、祭りの日が来た。
あわぶきは美しい着物を着せてもらい母さんと祭りへ。
こめぶきは仕事を言いつけられ、家にいなければいけなくなった。
こめぶきが一生懸命仕事をしていると、通りかかった坊様やスズメが手伝ってくれ、あっという間に仕事は終わり、祭りに行く時間が出来た。
その時、ちょうど友だちが祭りへ誘いに来てくれた。
でも、こめぶきは祭りに着ていく着物も帯も持っていなかった。
せっかくの祭りに行く機会。
こめぶきは逃してしまうのでしょうか。
『こめぶき・あわぶき』の素敵なところ
- こめぶきの姿が相手を動かす
- 人の心を持ったやまんば
- 残酷な傲慢、嫉妬のなれの果て
明らかに理不尽な言いつけや、いじわるをされるこめぶき。
でも、そこでくさるわけでもなく、ひたむきに頑張ります。
この絵本の素敵なところは、そのひたむきさが周りの人を動かしていくことにあります。
ひたむきにやってすごい成果が出るわけではありません。
それによって、周りの人がよくしてくれるのです。
やまんばや、坊様、スズメの力を借りて、こめぶきは祭りまでたどり着いてくのです。
「頑張っている姿は誰かが見ている」
そんなことを感じさせてくれます。
それが特に大きく表れているのがやまんばとの場面。
自分を食べようとするやまんばのために、怖いのを我慢してしらみを綺麗に取ってあげます。
これによりすっきりしたやまんばは、食べるのをやめるだけでなく、土産までくれるのです。
きっと逃げようとしていたら追いかけられて、食べられていたことでしょう。
こめぶきの行動が、やまんばの心を動かしたのです。
さて、このやまんばもよく昔話に出てくるやまんばと少し違います。
これもこの絵本の魅力の一つ。
最初から人間をだまして食べようとするのではなく、鬼のせがれから守ってくれようとするなど、想像しているやまんばとは違う行動をとるのです。
子どもたちも「え?食べないの?」「守ってくれてる?」「いいやまんばなのかな?」と様々な考えが頭の中を駆け巡ります。
でも、お腹が空いてくるとついに本性が・・・。
二人を食べようとしているのを見て、「やっぱり騙してた!」と気付く子どもたち。
襲われる覚悟を決めたところで、まさかの願い事。
そして、お礼をしてくれるやまんば。
これには子どもたちも「やまんば優しい」「食べられなくてよかった~」とほっとした様子。
中々珍しい、恩を忘れない人の心を持ったやまんばだったのです。
さて、この絵本の最後の場面。
傲慢なあわぶきと母さんは、こめぶきに激しく嫉妬することになります。
そして、その結末、なれの果てがなんとも滑稽で残酷で、でも人の心をよく表しているな~と思うものになっています。
その姿を見ていると、自分で考え、行動することの大切さをしみじみと感じさせてくれるのです。
綺麗な心、醜い心。
色々な人の心が渦巻いている。
見下さず、素直でいることの大切さを感じさせてくれる昔話絵本です。
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