サピエンス全史~文明の構造と人類の幸福

書籍

作:ユヴァル・ノア・ハラリ 訳:柴田裕之 出版:河出書房新社

様々な人種・国籍の人々が織り上げてきた歴史。

それを一括りにすると、ホモサピエンスという種の歴史になる。

原子の時代、多くの原人種から、ホモサピエンスだけが生き残り、農業、宗教、科学など、多くのことを生み出してきた。

原始時代~現代の歴史を、歴史学だけでなく、物理学や生命科学など、あらゆる分野の学問も総動員して紐解いていく本書。

そこには著者ユヴァル・ノア・ハラリならではの、示唆に富んだ考察も多く、歴史書としてだけでなく、読み物としても非常に面白いものになっている。

そして、現代へと歴史が繋がった時、著者は一つの物差しを提示する。

それは「文明は人類を幸福にしたのか」というものだった・・・。

『サピエンス全史』のすご過ぎるところ

『サピエンス全史』は紹介しきれないほど、本書にしかない魅力に溢れた本です。

読んでいると、知的好奇心が刺激され続け、どんどん読み進めてしまうほど。

一般に認識されている「歴史の本」とは思えないほど、世界や歴史の見方を大きく変えてくれるでしょう。

ぜひ、現代を生きる人すべてに一度目を通すことを勧められる本です。

そんな中でも、特筆すべきところをこの記事ではお伝えしたいと思っています。

それは、

  • わかりやすくも、読む人の興味を惹きつけてやまない文章の力
  • 多くの学問の知見や視点から語られる客観性
  • サピエンスの最も強力な武器「共同注意」

この三つです。

歴史の本は数あれど、ぼくが本書を読んで、全ての人に薦められると思った理由はこの三つに集約されています。

では、それぞれをもう少し詳しく見ていきましょう。

1, わかりやすくも、読む人の興味を惹きつけてやまない文章の力

まずはこの文章をご覧ください。

「~前略~「ビッグバン」によって、物質、エネルギー、空間が誕生した。私たちの宇宙の根本を成すこれらの要素の物語を物理学という。

物質とエネルギーは~中略~融合し始め、原子と呼ばれる複雑な構造体を成し、やがてその原子が融合して分子が出来た。原子と分子とそれらの相互作用の物語を「化学」という。

中略~特定の分子が結合し、格別大きく入り組んだ構造体、すなわち有機体(生物)を形作った。有機体の物語を「生物学」という。

~中略~ホモ・サピエンスという種に属する生き物が、なおさら精巧な構造体、すなわち文化を形成し始めた。そうした人間文化のその後の発展を「歴史」という。」

この文章は本書の書き出しです。

歴史の本というより、小説や映画の始まりのようではないでしょうか?

このように本書では、読む人をワクワクさせるような文章で歴史が展開されていきます。

だからこそ、面白い小説でも読んでいるかの如く、先が気になりどんどん読み進めてしまうのです。

また、その中で、ほとんど固い言葉を使わずに、あまり歴史に馴染みがない人でも「うっ」とならずに読めるのも本書のすごい所です。

かなり突っ込んだ内容があるにも関わらず、それをわかりやすい言葉や言い回し、巧みに例を出すことによりとても伝わりやすく書かれているのです。

また、それが現在の仕組みや生活とどんな繋がり方をしているのかを、要所要所で示してくれるのも面白く、歴史が自分事として感じられるのです。

2,多くの学問の知見や視点から語られる客観性

もちろん、わかりやすく面白いだけではありません。

常識的な見方とは違ったり、示唆に富んだ意見も多い本書ですが、著者の考えはしっかりとした根拠に基づいています。

それは歴史や考古学の研究からのみならず、物理学、生物学、テクノロジーなど、多くの分野からの知見を総合的に取り入れ導き出されています

また、客観性も強く意識されているのが特徴的です。

本書では基本的に結論を示してはくれません。

示してくれるのは、考え方や見方のみです。

それをどう判断し、使うのかは読者にゆだねられています。

ただ、その判断材料は多くの視点から見たものになっています。

個人の観点、生物学としての観点、国として、世界として、奴隷として・・・。

ある一定の視点だけでなく、多くの視点から見ることで、客観的に歴史が見られるように意識して書かれているのです。

これらはこの著者だからこそ、成しえた歴史観なのではないでしょうか。

3,サピエンスの最も強力な武器「共同注意」

さて、そんな多くの見方が出てくる本書の中で、大きなキーワードがあります。

それが「共同注意」です。

これは「みんなで一つのものを信じる力」のこと。

そして、これがサピエンスを地球の支配者にした最大の武器でもあるのです。

共同注意で出来ているものには実に多くのものがあります。

原始の神話信仰から始まり、宗教、国家、貨幣、果ては株式会社まで。

これらは全て共同注意による産物です。

共同注意で作られたものは、概念であり、その価値はみんなで信じていることで存在します。

貨幣の価値は変動するし、国も解体されます。

神は信者がいなくなれば、消えてなくなってしまうでしょう。

ですが、裏を返せば、共通のものを信じていれば、どんなに大きな規模でも組織化出来るということでもあります。

国などの何億人という規模であっても。

そして、その組織力がサピエンスを他の動物との大きな差であり、地球の支配者にした最大の武器なのです。

さらに、この考え方は現代を生きる上でも非常に大切な考え方です。

現代のほとんどの基盤は「共同注意」に支えられ成り立っているのですから。

まとめ

原始時代~現代という、歴史の大きな流れが描かれる本書。

しかし、難しくなり過ぎず、小説のような読みやすさや面白さを持っています。

ですが、そこにはしっかりとした根拠が示され、厳密過ぎるほどの客観性への配慮が感じられます。

読みやすさ面白さと、学問性のバランスが素晴らしすぎる、示唆に富んだ本書。

歴史が好きな人も、普段敬遠している人も、ただ、面白い読み物を探している人も・・・。

ぜひ、人生に一度は手に取って欲しい一冊です。

コメント

  1. [数の言葉]と[言葉]の[ビッグバン](分化・融合) より:

    「サピエンス全史~文明の構造と人類の幸福」を紹介してくださりありがとうございます。
     【 客観性 】について、≪…現代のほとんどの基盤は「共同注意」に支えられ成り立っている…≫で、
    「数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた 」 ケイレブ・エヴェレット (著), 屋代 通子 (訳) と 
    「「あいまいさ」の物理学: 秩序と無秩序の間をとらえる新しい試み 」 ジュゼッペ カリオティ (著), 宮崎 忠 (訳)  らから[数の言葉ヒフミヨ]に想う・・・

    2024.10.19 折々のことば 鷲田清一 3238 の
    【 客観性という言葉が誤って使われていると私は思います。魂を通り抜けなければ、ほんとうのものは出てこない。  鶴見和子
     見るだけで、調べるだけならコンピューターでもできる。だが学問は「『私』の魂を通さなきゃだめ」と比較社会学者は言う。 歌うこと、踊ることは、「生命そのものの表れ」であって、それが学問の根底になければならないのは人類共通のことなのに、今の学問はそれを失っていると。石牟礼道子との共著『言葉果つるところ』(新版)から。 】 と、
     「「あいまいさ」の物理学: 秩序と無秩序の間をとらえる新しい試み 」 の 
    【 知覚する際に経験することは、秩序ある自己組織化へと向かう自然現象 ―協同現象― の一つといえる。種々の自然系が平衡状態からはずれる時には、自己組織化が起こっているのである。 】 で、
    自然数(数の言葉ヒフミヨ(1234))を捉えると、
     数の世界の[連続性]と[離散性](数えるコト)が、
    『離散的有理数の組み合わせによる多変数関数』の眺望に合致している。

     [数の言葉](自然数)が、[魂]であるならその使い方は、【ホモサピエンス】として[魂]で【「共同注意」】するのか、させているのかになっている。

     【「共同注意」】するのか    は、自然科学 で、
     【「共同注意」】させているのか は、社会科学 に、
      観えてくる。

    • コメントありがとうございます!
      『サピエンス全史』お好きなのですね!人間の歴史や、歴史学といものについて、視野を広げてくれるとてもおもしろい本ですよね。
      紹介していただいた本、両方ともとてもおもしろそうですね。今度、ぜひ読んでみます!「あいまいさ」というのは、保育の本質に近いものがありますから。
      自然数は古代から使われ続け、人間を象徴するものでもあると思うので、きっと「魂」と呼んでもいいものなのでしょう。
      確かに、「共同注意」するのか、させるのかで所属する学問が異なるのはおもしろいですね。同時に、古代においては「させて」いたけれど、現代においては数えるということがDNAに刻み込まれ「する」になっているのではないかとも思ったりします。
      そういう意味では、数と人間の進化論みたいなこともおもしろそう。
      いつもいただいたコメントの返信をしていると、思考がどんどん広がって行くのを感じます。特に、数学に対するこれまでのイメージが解きほぐされて、とてもキラキラしてくる感覚。
      本当に楽しいコメントをいつもありがとうございます!

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