文:いまむらあしこ 絵:ひらさわともこ 出版:あすなろ書房
文字が気になるお年頃。
自分の名前の一文字が入った言葉を見つけると、嬉しくなってしまいます。
そんな爽やかな嬉しさが詰った素敵な言葉の絵本です。
あらすじ
気持ちのいい日曜日の朝のこと。
絵本を持って、男の子のよしおはお母さんの所に行きました。
台所でオムレツを作っているお母さんに、よしおは聞きました。
「この字何て読むの?」
よしおは四つの字の一番上の字を指さしています。
お母さんは言いました。
「その字はお。お日さまのお。起きなさいのお」
それを聞いて、よしおは繰り返して言いました。
その後、「オムレツ、美味しいのお」と小さい声でいいました。
次によしおは新聞を読んでいるおじいさんの所に行きました。
今度は二番目の字を指さして聞きました。
すると、おじいさんは言いました。
「それはは。春風のは。花が咲くのは」
よしおは繰り返して言いました。
そして、おじいさんのくしゃみを聞いて、「はっくしょんのは」と言うと、はははと笑いました。
次は髭剃りをしているお父さんの所です。
『お・は・よ・う』の素敵なところ
- 一つの文字から言葉が広がっていく
- 家族それぞれの細かな描写
- 読めるようになる喜びや楽しさがとても伝わってくる
この絵本のとても素敵なところは、文字と言葉にある無限の広がりに気付かせてくれることです。
繋げると一つの意味になるお・は・よ・うという四文字も、バラバラにするとたくさんの言葉が隠れています。
「お」はおはようの「お」でもあるし、お日さまの「お」でもある。
そんな言葉の広がりや面白さに気付かせてくれるのです。
子どもたちも自分の名前の文字が入った言葉を言い始めたりして面白い。
その言葉も、自分の好きなものと関連づいていたりします。
「ルリスジカミキリのる」と言う、虫好きの強者などもいたりしました。
また、色々な「お」があるけれど、この絵本ではそれぞれ教えてくれる言葉が、「おはよう」のイメージから連想されるものになっているのも素敵なところです。
「お日さま、起きなさい、春風、花が咲く、よしお、よいこ」と言ったように、温かさや爽やかさを感じるものになっています。
そして、言葉だけでなく、よしおやその家族の生き生きとした、本当にそこで生活をしているような描写も、大きな魅力の一つです。
お母さんは文字を聞かれたとき、料理の手を止め、エプロンで手を拭いてからよしおの文字を見ます。
フライパンの中からはいい匂いがしています。
おじいさんは眼鏡をかけ直してから、よしおの文字を見ます。
新聞をめくったから、あたりが新聞の匂いでいっぱいになります。
お父さんは声をかけられても、電気カミソリの音で聞こえません。
電気カミソリのスイッチを切ってから、よしおの話を聞きます。
こんな風に、家族それぞれの描写が細かく、話し方、接し方、音や匂いまで、自分がよしおになって、そこの家の中にいるような気分になってくるのです。
四つの文字をそれぞれ教えてもらい「お・は・よ・う」と読めるようになったよしお。
改めて、繋げて読む時の嬉しそうで、誇らしげな様子は、子どもにとって読めるようになるということが大事件で、かけがえのない体験であることを感じさせてくれます。
一つずつの文字を教えてもらうことを積み重ねて、読めるようになった成果だからでしょう。
一つ一つの言葉から、一歩一歩世界が広がっていく様子を丁寧に描く。
言葉の楽しさやおもしろさ、その言葉を使った関わりの大切さや温かさがぎゅっと詰まった絵本です。
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