作:板橋雅弘 絵:サトウマサノリ 出版:岩崎書店
プロレスには正義の味方と悪役がいる。
男の子のパパは悪役でいつも負ける。
でも、そんなパパが大好きで、大ファンだった。
そんな時、男の子は公園で正義の味方に出会った。
あらすじ
ぼくのパパの仕事はプロレスの悪役ゴキブリマスク。
正義の味方ドラゴン・ジョージを痛めつけて、みんなから嫌われている。
ぼくはパパを応援しているけど、時々「パパがドラゴン・ジョージだったらなあ」って思ってしまう。
休みの日、ぼくはパパをキャッチボールに誘った。
パパは用事が終わった後ならいいと言う。
ぼくは一人で公園に向かった。
公園の壁をドラゴンだと思って、ボールをぶつけた。
ぼくもパパと一緒に戦っている気持ちになった。
しかし、ボールがそれて、ベンチで座っている人の足元へ転がってしまった。
顔を隠している男の人が、ボールを拾ってくれる。
その時、帽子が落ち見えた顔はドラゴン・ジョージだった。
なにをしているのか聞いてみると、ドラゴンは「正義の味方をお休みしているのだ」と言う。
そして、正義の味方に戻って、キャッチボールをしてくれた。
キャッチボールは楽しくて、褒められて嬉しかった。
でも、パパのことを思い出し、キャッチボールをやめた。
ぼくはパパが悪者をしていることをドラゴンに話した。
だから、仲良くできないと。
ドラゴンはぼくのパパがゴキブリマスクだと聞いて驚いたが、ぼくも知らないパパの秘密を教えてくれた。
知られざるパパの過去とは一体なんだったのでしょう。
『わるものパパのだいだいだーいファン』の素敵なところ
- 悪者をパパに持つ男の子の、パパへの愛情と複雑な気持ち
- だれもが正義の味方の時も悪者の時もお休みする時もある
- 本当のプロレスを見ているようなダイナミックな絵
この絵本の男の子は、パパの一番の大大大ファンです。
パパが悪者でも応援するし、悪者だから嫌いになることもありません。
壁をドラゴンに見立ててボールを投げ、一緒に戦ったりと心から応援しているのです。
でも、そこには子どもだからこその、複雑な気持ちがあります。
観客の前で大声を出して応援できなかったり、プロレスの性質上いつも負けてしまいます。
そんな時、「正義の味方だったら」と思ってもしまいます。
そして、そんな気持ちはパパには絶対に言えません。
この複雑な子ども心を、丁寧に描写しているのがこの絵本の本当に素敵なところ。
大好きな気持ちと、複雑な気持ちがとてもよく伝わってくるのです。
子どもたちも最初は「ゴキブリマスク!」と笑ったり、「悪者やだな~」と言っていましたが、男の子の気持ちがわかってくると、次第に応援するようになっていくのも面白いところ。
ゴキブリマスクが負けると「あ~、負けちゃった・・・」「勝ってほしかったな」と、ぼくと一緒に悔しがっているのです。
男の子の気持ちがしっかり伝わっているのでしょう。
パパには言えない複雑な気持ち。
これを聞いてくれたのは正義の味方ドラゴン・ジョージでした。
偶然公園で会ったドラゴンにこの気持ちを伝えると、思いもよらない答えが返ってきたのです。
誰しも正義の味方の時も、悪者の時も、どちらでもなくお休みする時もある。
当たり前のようで、忘れがちで、大切なこと。
それをパパの過去、自分の体験と一緒に教えてくれたのです。
このメッセージがストレートでわかりやすく、力強い。
大人にも子どもにもよく伝わってくるのです。
そんなプロレスを題材に大切なことを伝えてくれるこの絵本。
もちろんプロレスの場面も描かれます。
その臨場感や躍動感が物凄いのもこの絵本の魅力なのです。
特にドラゴンがゴキブリマスクにラリアットを決めている場面は、本当に痛そうで、音まで聞こえてきそうなほど。
勝利の雄たけびや、ポーズを決めるところ、ゴキブリマスクが退場させられるところなど、本当にリングにいるかのように描かれているのです。
さらにこの臨場感は日常場面の描写でも健在で、男の子とドラゴンのやり取りや、キャッチボールをする場面など、本当にそこに二人が実在しているような存在感とやり取りになっているのです。
この存在感があるからこそ、男の子の複雑な心の動きがよく伝わってくるのだと思います。
パパが悪者役をやっているという子どもの、パパが大好きだけど複雑な気持ち。
そんなモヤモヤを力強く、清々しく晴らしてくれる。
プロレスのように爽快な絵本です。
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