作:シゲリカツヒコ 出版:ポプラ社
ある日、妖怪のバスを手伝うことになった男の子。
普通のバスと違い、地獄から海の中まで、思いもよらない所にバス停が。
たくさんの妖怪を乗せて、バスが走り出しました。
あらすじ
夏休み。
男の子ユウタは、一人でおばあちゃんの家へ行くことになった。
しかし、ふじみ町で降りるはずが、降り過ごし、見知らぬ場所まで来てしまった。
辺りを見回すと、変わった形の車が止まっている。
中を覗くと、子どもが運転手の帽子を被って立っていた。
子どもの名前はバスわらし。
この車はバスで、バスわらしは運転手だった。
ふじみ町に行くか聞いてみると、仕事を手伝ったら寄ってくれるという。
ユウタはバスの車掌をすることになった。
時間になり、バスは出発する。
洞窟をどんどん進んでいくと、最初のバス停に到着した。
そのバス停は地獄の一丁目。
名前だけではない、本当の地獄だった。
バスが止まると、赤鬼と青鬼がユウタに切符を渡してきた。
ユウタは震える手で切符を受け取った。
その後も、バスは狐塚、天狗山、化け猫屋敷と、色々なバス停を回っていく。
そして、河童淵二丁目で、崖から飛び降り海の中へ。
でも、不思議なことに水の中でも息が出来、ユウタは河童から切符を受け取った。
水の中を進んでいくと、バスが急上昇を始めた。
海から出て、空を飛び、大気圏を越えて、宇宙へ。
次の駅は月のうら。
月のうらではウサギが切符を渡し、降りていった。
無事に全員のお客さんを送り届けたバスわらしは、ユウタをいいところに連れていってくれると言う。
着いた先は、地球が綺麗に見える場所だった。
地球を見ながらユウタは思い出した。
亡くなったおじいちゃんもバスの運転手だったことを。
それを聞いて、バスわらしも話し出した。
昔、バスが大好きだった自分に、運転名人のおじさんがこの帽子をくれたこと。
この帽子を被っていると、そのおじさんみたいに運転できることを。
その時、辺りが急に暗くなった。
宇宙嵐が来たのだ。
二人は急いでバスに乗り、地球に向かって走り出した。
ところが爆発に巻き込まれ・・・。
二人は無事に地球に戻れるのでしょうか。
『ごじょうしゃありがとうございます』の素敵なところ
- 摩訶不思議な妖怪バスと気のいい妖怪たち
- リアルで精緻過ぎる絵
- バスを通して繋がる不思議な絆
この絵本の一番の魅力は、不思議過ぎる妖怪バスだと思います。
特に面白いのが、間違って乗ってしまうわけではなく、ちゃんと運転手に聞いたうえで、手伝いとして乗るという所。
しっかりとバスの一員なのです。
最初は怖がっていたユウタも、少しずつ慣れてきて、車掌として成長していきます。
そんな変化も素敵なところだと思います。
お客さんも迫力はあるけれど、みんな気のいい妖怪たちで、労ってくれたり、お礼を言ってくれたりします。
それを見ていると、最初は怖がっていた子どもたちも、こんなバスの車掌をやってみたい気持ちに変わっていくみたいです。
もちろん、妖怪のためのバス停も普通のものではありません。
しょっぱなから、地獄へと辿り着き、インパクトを与えてきます。
さらに、海の中、果ては宇宙の月の上まで、まさかの展開の連続です。
その起伏に富んだバスの旅を、さらに迫力あるものにしてくれているのが、リアルで物凄く精緻に描かれた絵です。
バスの古びた質感から、地獄の禍々しさ、海の中の浮遊感など、本当にそこにあるような気分にさせてくれます。
特に宇宙へ出る時の描写は凄まじく、水しぶきを上げ、雲に穴を開け大気圏を突破していく様子は、本当にロケットの発射場面を見ているような気分になります。
そこからの地球を見たり、宇宙嵐の場面など、ハリウッド映画でも見ているかのよう。
このリアルさが、本当にバスに乗っている気分にさせてくれるのだと思います。
そして、この巡り合わせが偶然ではないのも素敵なところです。
実は伏線がたくさん張られていて、それが最後の場面で一つに繋がっていきます。
このバスを通した絆が、この物語にただの偶然ではない説得力と力強さを与えてくれるのです。
さらにこの経験はユウタを、とても成長させるものになっているのも素敵なところ。
最初、おばあちゃんの所へ一人で行くのに乗り気ではなかったユウタが、最後の場面では全然違う考え方になっているのだろうなと想像できるのです。
大迫力で魅力的で妖怪バスの旅をリアル過ぎる絵で体験できる。
男の子と妖怪の不思議な絆と成長の物語です。
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