文:高木さんご 絵:黒井健 出版:講談社
満ちたり欠けたりするおつきさんの不思議。
でも、もしかしたら満ちても欠けてもいず、
黒い帽子を被っているだけかもしれません。
あらすじ
丘の上に一軒の帽子屋がありました。
帽子屋のおじいさんの作る帽子は、美しく、型崩れしない、丈夫な帽子です。
まん丸なおつきさんは、空の上から帽子を買いに来る客の様子を見ていました。
ある夜は魔女が。
ある時は海賊の船長が。
またある時は手品師が。
おじいさんの店に帽子を買いに来ていました。
おつきさんはおじいさんの作る帽子が欲しくなりました。
ある日、おつきさんはおじいさんに声をかけ、魔女の帽子を作って欲しいと頼みました。
おじいさんは何日もかけて帽子を作り、家よりも大きな魔女の帽子が出来ました。
おつきさんは魔女の帽子を被ると、魔女たちのいる森に行きました。
魔女たちは、ぐるぐるとおつきさんの周りを飛び回りました。
しばらく経つと、おつきさんは別の帽子も欲しくなりました。
そこで今度はおじいさんに海賊帽を頼みました。
おつきさんは出来た海賊帽をかぶると、海賊のいる海に行きました。
そして、海賊たちが宝を隠すところをじっと見ていました。
次におつきさんはおじいさんにシルクハットを頼みました・・・。
『おつきさんのぼうし』の素敵なところ
- 帽子で表現された月の満ち欠け
- とても大きな帽子を作り上げるおじいさん
- 温かく優しい絵と世界観
この絵本のとても素敵なところは、月の満ち欠けを帽子で表現する発想だと思います。
満ち欠けしているのではなく、「黒い空に黒い帽子を被っているから頭が見えないだけ」という発想は夢があり、子どもにもとてもわかりやすいです。
特に新月の時は、より一層おつきさんの可愛さに愛着が湧くでしょう。
また、月の形によって、絵本に出てこない帽子が想像できるのも素敵なところ。
細くなっている時は「ヘルメットをかぶってるのかも」といったように、さらなるイメージが広がります。
そんなおつきさんの帽子ですが、もちろん作るのも一筋縄ではいきません。
家の外で一生懸命作るおじいさん。
その作る様子は圧巻です。
魔女の帽子は鉄塔のような梯子を使い仕上げていきます。
海賊の帽子は立てられないので、家より大きな木によりかからせて作業します。
こんな風に、まるで家を作る大工のような作業風景になっているのです。
これには子どもたちも、
「家より大きいよ!」
「出来て来てる!」
「おじいさん大丈夫かな・・・」
と、驚きや心配の声が。
でも、完成すると「本当に出来たよ!すごい!」と感動の声。
おつきさんの帽子を作る大変さが、しっかり伝わっているみたいです。
さて、この絵本はとても温かく優しく描かれているのも素敵なところだと思います。
まず、おつきさんの柔らかい光で包まれているような絵です。
ずっと夜のこの絵本ですが、いつもおつきさんが照らしてくれているので、柔らかな光に包まれ安心感があります。
そこに出てくる魔女や、海賊も丸みがあり、かわいらしく愛着が持てるものになっているのです。
また、みんな生き生きと楽しそうに生きているのも、この世界を魅力的にしてくれているポイントだと思います。
その中でも、おじいさんとおつきさんのやり取りは特に素敵です。
おつきさんの帽子を作るという、前代未聞の大仕事。
これを引き受ける理由は「暗い夜を明るく照らしてくれるから」というもの。
当たり前に思えることに感謝を忘れない、おじいさんの人柄と、その優しい世界観が素敵なのです。
温かく、優しく、柔らかく描かれる世界の中。
おつきさんが帽子を付け替えているという、新しいイメージの世界を開いてくれる夢の詰まった絵本です。
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