文:神沢利子 絵:赤羽末吉 出版:BL出版
みんな知っているさるかに合戦の昔話。
それをわかりやすく、ボリューミーに、アレンジも加えつつ描かれている。
少し大きい子向けの、さるかに合戦です。
あらすじ
昔、サルが柿の種を拾いました。
カニがおむすびを拾いました。
サルはおむすびが食べたくて仕方なかったので、カニに交換してもらうことにしました。
サルはおむすびを食べ、カニは柿の種を植え、世話をしました。
すると、柿の種はどんどん育ち、立派な柿の木になり、たくさんの実をつけました。
さっそく、カニが柿を取ろうとしましたが、うまく木に登れません。
そこへサルがやってきて、柿を取ってくれると言います。
しかし、サルは木に登ると、自分だけ柿を食べ始めました。
カニがサルへ催促すると、サルは青くてかたい柿をカニめがけて投げつけました。
カニは柿に当たって潰れてしまいました。
カニは潰れてしまいましたが、そのお腹からは、子ガニたちがたくさん産まれてきたではありませんか。
子ガニたちはまず畑を作り、キビを育て、それでキビ団子を作ると、親の仇討ちへと出かけました。
目指すはサルの家です。
サルの元へ向かっていると、クマンバチが飛んできました。
クマンバチは話を聞くと、キビ団子をくれたら一緒に行くと言ってきます。
子ガニはキビ団子をあげ一緒に行くことになりました。
その後も歩いていくと、栗、ウシのフン、臼に出会い、それぞれにキビ団子をあげると、一緒についてくることになりました。
いよいよサルの家に到着しましたが、サルはまだ帰ってきていませんでした。
その間に、栗が囲炉裏の灰の中に。
ウシのフンは戸口の外に。
臼は戸口の軒下に。
子ガニたちは家中の隙間に入り込み、サルが帰ってくるのを待ちました。
そして、サルが家へと帰ってきました・・・。
『さるとかに』の素敵なところ
- 一つ一つの場面が丁寧に描かれ、物語に入り込みやすい
- 桃太郎調のアレンジで、仲間がしっかりと頭に入ってくる
- 所々、絵がシュール
この絵本の大きな魅力は、さるかに合戦の昔話を、思い切り楽しめることです。
コンパクトにまとめられず、冗長にもなり過ぎず、ちょうどいいボリューム感で、それぞれの場面を丁寧に描いてくれます。
カニが柿の木を育てる場面での、芽が出て、木になり、実がなるところ。
仲間と一人一人出会う場面。
サルが仕返しされる場面での、栗が爆ぜ、ハチが刺し、子ガニが挟み・・・など。
一ページでまとめられがちな所も、それぞれに一ページ使われ、時間の流れや、その場面での出来事や詳細がしっかりと伝わってきます。
ある程度長い物語を楽しめる年齢になってくると、この丁寧さが没入感を高めてくれるのです。
また、邪魔にならない程度のアレンジも面白いところ。
この絵本では、子ガニが仲間を見つける過程が完全に桃太郎なのです。
子ガニたちがキビを育て、キビ団子を作った時点で、子どもも「ん?」となり始めます。
そして、出会っていく中で「どこに行くんだ?」→「キビ団子をくれたら一緒に行くよ」のやり取りを見て確信します。
「これ桃太郎じゃん!」と。
でも、このやり取りが誰が仲間になったか印象付けるのに、物凄い力を発揮してくれているのも事実です。
さらに、仲間づくりの場面が終わりサルの家に着くと、しっかりさるかに合戦へ話が戻るのもすごいところ。
このアレンジが、後に残ったりしないのです。
読み終わった後には「さるかに合戦おもしろかった」と、しっかりとさるかに合戦の絵本なのです。
さて、この絵本にはもう一つ不思議な魅力があります。
それが所々絵がシュールなところです。
まずはキビ団子を貰う所。
クマンバチは虫なのでギリギリわかります。
では、他の栗、フン、臼はどうやってもらうのでしょう。
なんと、ニョキっと手が生えてもらいます。
何の説明もなく、当たり前のように手が生えます。
子どもたちもびっくりです。
「手が生えたよ!?」
でも、自然に話が進むので「そういうものか」と思わせてくれます。
他にも臼が仲間になってついてくる時、うさぎ跳びのようにどっすんどっすんと飛び跳ねることが多いと思います。
が、この絵本は違います。
横倒しになり、自分の形を最大限に活かし、合理的な転がり方をしてきます。
そのどれもが絶妙にシュールで、くすりとさせてくれたり、子どもを困惑させてくれるのです。
よく知られたさるかに合戦を、丁寧にわかりやすく描き、程よいアレンジを加えることで、さるかに合戦を知っている子も、知らない子も楽しく新鮮に見られる昔話絵本です。
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