文:富安陽子 絵:吉田尚令 出版:理論社
それは不思議な光を放つ不思議な月。
その月の光を浴びると、不思議なことが起こります。
静かで幻想的な不思議な一夜が始まります。
あらすじ
空に丸い不思議な月が登りました。
透き通った光を林の中に投げかけると、虫たちが一斉に羽ばたき妖精になって踊り出したのです。
月の光が野原に広がると、土の下で眠っていた花の種がぐんぐん育ち、野原は花で一杯になりました。
月が海原を照らすと、空と海が繋がって、魚たちが夜空に登っていきました。
そして、月の下を泳ぎ回ったのです。
月の光が街を包み、家の中へ流れ込むと、眠っていた赤ちゃんたちが目を覚まし、夜空を飛び回ったのです。
不思議な月は遠い国の空にも登ります。
サバンナの夜空にも、ジャングルの夜空にも・・・。
戦場の夜空にも・・・。
『ふしぎな月』の素敵なところ
- 静かで綺麗で幻想的
- 優しく語りかけてくれる言葉
- 暗闇を照らす希望の月
この絵本を見ていて、まず驚くのはその美しさではないでしょうか。
青白い月の光の中、踊る妖精、咲き誇る花、そして、空を泳ぐクジラや魚。
その光景は思わず「綺麗・・・」とつぶやいてしまうほど、美しく幻想的です。
また、賑やかなはずなのにとても静か。
何も言わず、全てを受け止めてくれるような、静かで優しい空気感が広がっているのです。
そんな静かで優しい世界を形作っている、もう一つの要素が言葉です。
美しい詩のような言葉。
それは幻想的な絵と相まって、よりこの世界を美しいものにしてくれています。
でも、美しいだけではありません。
とても優しいのです。
すべてを受け入れてくれる大きな月のように、優しく優しく語りかけてくれます。
そして、喜びも悲しみもまとめて照ら出してくれるのです。
この絵本では、世界の美しさが語られるだけではありません。
戦場や、壊れた街で立ち尽くす子どもなど、世界の悲しい部分も描きます。
その情景はとてもリアルで、痛々しいものです。
しかし、そこで描かれるのは絶望ではなく、希望です。
その象徴が不思議な月。
悲しみや絶望の波にのまれ沈まぬよう、宵闇を照らす月が希望となってくれるのです。
自分の中の不思議な月が、どこにあるのかを考えさせられてしまいます。
この絵本の願い同様、全ての人を照らしてあげて欲しいと願わずにはいられません。
静かで美しく幻想的な不思議な月の光が降り注ぐ世界。
その世界を通して、美しさや優しさだけでなく、悲しさや苦しみ、そして希望と願いまで描き出されて絵本です。
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