文:香山美子 画:長新太 出版:教育画劇
天狗からもらった(?)羽団扇。
それは鼻を高くしたり、低くしたりできる不思議な団扇でした。
それを使って、もんたは悪知恵を働かせ・・・。
あらすじ
あるところに、もんたという若者がいました。
がらくた市でざるを買った帰り、峠の大きな木の下で、ざるを頭に被って休んでいるところでした。
すると、木の上で動くものが。
もんたは何の気なしに、「天狗かあ?」と言ってみると、なんと本当に天狗が木の上にいたではありませんか。
天狗が「俺の姿が見えるのか」と聞くと、もんたは「千里眼のメガネを持っているか見える」と言って、ざるの目からあちこちを見回しました。
天狗は木から降りてきて、ざると羽団扇を交換してくれと言ってきました。
その団扇は、鼻を高くしたり、低くしたりできるというのです。
もんたは交換に応じ、交換するとすぐに逃げていきました。
逃げたもんたは早速、団扇の力を試してみることに。
和尚さんの鼻をこっそり伸ばしてみたのです。
結果は大成功。
大喜びのもんたは団扇を持って旅に出かけました。
しばらく行くと、長者様の家で美しい娘が花見をしている所に出くわしました。
そこでもんたは、こっそり団扇を仰ぎ、娘の鼻を低くしたのです。
娘の鼻は、縮んで小さな豆粒ほどになったからさあ大変。
大騒ぎになったところで、もんたは「たかひくお鼻治しでござい」とよばわりました。
早速呼ばれたもんたは、娘の鼻を戻します。
もんたはこうして、お金をたくさんもらったのでした。
いい気分のもんたは河原で休むことにしました。
涼しい風に、もんたがうとうとしていると、一匹のハエがもんたの顔にとまります。
もんたは団扇でハエを追っているうちに、寝ぼけてつい言ってしまいました。
「鼻、鼻、たこうなれ・・・」
すると、もんたの鼻はどんどん伸びて、ついに天の上まで。
さて、その頃天の上では・・・。
『てんぐのはうちわ』の素敵なところ
- 感心してしまうもんたの悪知恵
- ちょっと間抜けでかわいい天狗
- 適応力の高すぎるもんた
この昔話は、ほとんどすべてもんたの悪知恵で出来ています。
どんな状況でも悪知恵を働かせ、自分のいいように持っていくもんた。
その悪知恵には、善悪を通り越して、感心させられてしまいます。
同時に、今度はどんなことをするのだろうと、期待もしてしまうのです。
しかも、しっかりと効果を試してみたり、かなり計画的だったりと、よく考えられているのも面白いところです。
もんたの頭の良さがよくわかり、より感心してしまいます。
さて、きっかけとなったのは天狗との出会いでした。
この天狗が見た目に反して、素直で間抜けでかわいいのです。
いかめしい顔に、大きな体。
その姿はまさに威厳のある天狗です。
でも、千里眼のメガネと聞いて興味津々。
子どものように食いついてきます。
しかも欲しすぎて、羽団扇と交換までしてくれます。
ただのざるだと知っている子どもたちは必死。
「騙されてるよ!」
「それただのざるだよ!」
と止めようとしてくれていますが、声は届かず・・・。
嬉しそうにざるを覗き込んでいます。
この姿がまたかわいい。
このやり取りが、なんとも間抜けでこの絵本の魅力的なところです。
そんな天狗へも物怖じしない、度胸と対応力を見せたもんた。
最後の場面ではさらに驚かされることに。
その適応力と、なんでも楽しめる心には脱帽で、清々しさすら感じます。
最後のページの絵には、もんたの人間性が詰っているようで、「こんな生き方もいいな~」と思ってしまうのです。
次々と出てくる悪知恵と、機転の良さに悪戯心をくすぐられる。
もんたの魅力に引っ張りだこな昔話絵本です。
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