文:松居スーザン 絵:松成真理子 出版:童心社
捨て猫のフーシカは、誰に対しても攻撃的。
でも、優しいおじいさんとの出会いが、フーシカに変化を起こします。
ゆっくりとゆっくりと少しずつ・・・。
あらすじ
冷たい雨の降る、秋の夕暮れ。
ダニエルじいさんは、誰も使っていない納屋の中で、捨てられた子猫を見つけました。
ダニエルじいさんが、抱き上げようと手を出したその時、子猫は「ふぅっ!」と怒って、ダニエルじいさんの手をひっかきました。
手を引っ込めたダニエルじいさんは「抱っこが嫌ならついてきなさい」と、子猫を振り返りつつ先を歩きました。
子猫はちゃんとついて来ているようです。
しばらく歩くと、ダニエルじいさんの家に着きました。
ダニエルじいさんが声をかけると、大きな犬、小鳥たち、ヤギ、とフクロウが子猫へ挨拶をしました。
しかし、子猫は「ふぅっ!」とみんなを脅しただけでした。
家に入りご飯の時間になりましたが、子猫だけは家に入ろうとしません。
そこで、ダニエルじいさんは物置の奥の箱に毛布を敷いて、お椀に温かいミルクを入れ置いておきました。
すると、子猫はダニエルじいさんを追っ払ってから、ミルクを舐め始めました。
ダニエルじいさんはその様子を見て笑い、いつもフーと怒っているので、「フーシカ」と名前を付けました。
フーシカは物置の中でふとりぼっちです。
物置の中を見回していると、大きな籠の中からお人形がはみ出していました。
フーシカはそのお人形を自分の箱まで持ってきました。
これでもう寂しくありません。
お腹もいっぱいになり、体も温かくなると、ぐっすり眠ってしまいました。
フーシカは段々とこの生活に慣れてきましたが、相変わらず誰とも仲よくしようとはしませんでした。
ある夜、ダニエルじいさんの家から、楽しそうな音楽が聞こえてきました。
フーシカが中を覗いてみると、そこではダニエルじいさんがハーモニカを吹き、その音に合わせて動物たちが演奏したり、歌ったりしています。
とても楽しそうでした。
その時、ダニエルじいさんと目が合いました。
ダニエルじいさんはフーシカに手招きしましたが、フーシカは「ふぅっ!」と言って、物置に帰るのでした。
次の朝、フーシカが目を覚ますと、外は一面の雪。
雪の嫌いなフーシカは物置に閉じこもっています。
そんなある日、ダニエルじいさんが食べ物を買いに村まで出かけていきました。
日が暮れるころ、ダニエルじいさんは帰ってきましたが、とても具合が悪そうですぐにベッドに横たわってしまいました。
動物たちはダニエルじいさんの世話をしています。
でも、フーシカには何もできません。
しかし、ダニエルじいさんのベッドを見上げているうちに、フーシカはあることを思いつきました。
フーシカは一体何をするのでしょう。
ダニエルじいさんは元気を取り戻してくれるのでしょうか。
『こねこのフーシカ』の素敵なところ
- どこまでもフーシカに合わせて見守ってくれるダニエルじいさん
- 少しずつ心がほどけていく丁寧な心理描写
- 素直じゃないけれど素直なフーシカ
捨てられたことで、攻撃的になり誰も信じないフーシカ。
それは当然のことでしょう。
そんなフーシカを見つけたダニエルじいさんは、抱き上げようとして引っかかれてしまいます。
でも、怒ったりすることなく、見捨てることもなく、フーシカをなんとか助けようとしてくれます。
これは終始一貫していて、常にフーシカの心に寄り添い、無理に近づこうとせず、ひたすら心を開くのを待ってくれています。
心が傷ついていたフーシカにとって、これほどありがたいことはなかったでしょう。
フーシカを心配する他の動物たちへの言葉も印象的で、「きっと大丈夫だから、待ってあげよう」とずっと言い続けてくれるのです。
相手を心配しつつも、ゆっくりゆっくり待っていてくれる。
だからこそフーシカも心を許していったのだと思います。
ダニエルじいさんの優しさに、少しずつ心がほぐれていく様子をとても丁寧に描いているのも、この絵本の素敵なところです。
ひとりぼっちだったフーシカは、ダニエルじいさんと動物たちの関わりを見たり、動物たちに声をかけてもらったり、ダニエルじいさんに毎日挨拶をしてもらっているうちに、少しずつ本音が頭に浮かびます。
「ぼくはここが気に入ったから、ここに住むことにするんだ」
「一度みんなと一緒に食べてみようかな」
「あーあ、つまんないな」
段々と、ダニエルじいさんや動物たちと一緒に過ごしたいという気持ちが、大きくなってきているのを感じさせてくれます。
これが一つ一つの場面でとても丁寧に、ゆっくりと描かれていくので、もの凄く感情移入できるのです。
その積み重ねが、最後の場面に繋がるので、心の底から「よかったね、フーシカ」と笑顔になってしまうのでしょう。
そんなフーシカですが、最後まで素直にはなりきれません。
しっかりプライドも持っています。
だけど、本当は素直なことがまるわかり。
それが最後のフーシカのセリフには詰まっています。
「素直じゃないな~」とニヤニヤさせてくれます。
この素直じゃないかわいさも、フーシカの大きな魅力の一つなのでしょう。
捨て猫のフーシカが心を開いていく姿を、ゆっくりと、丁寧に、大切に描いていった。
本当の優しさと信頼を感じることが出来る物語です。
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