作:たじまゆきひこ 出版:くもん出版
人間の都合で捨てられた犬。
野良になった後の現実はとても残酷なものでした。
生き物を捨てるというのがどういうことか、痛いほど突きつけられるお話です。
あらすじ
としおは、拾ってきた黒い子犬を飼うことになった。
お父さんは、犬にボンと名付けた。
そんなある日、お父さんの東京本社への転勤が決まった。
としおたちは引っ越すことになった。
でも、東京のマンションでは犬は飼えない。
お父さんは、「友だちに預かってもらう」とボンを連れていった。
お父さんは車にボンを乗せ、町を出て島へ向かった。
島に着くと、お父さんはボンを島に捨てた。
嘘をついていたのだ。
ボンは島に取り残され、としおを呼んで鳴き続けた。
海の方からいい匂いがしたので行ってみると、干物が干してあった。
近づくと、他にも野良犬が二匹いた。
三匹は一緒に、おじさんに追い払われた。
三匹は仲良くなった。
話を聞くと、茶色の犬は毎日たたかれてしつけをされ、噛み癖がつき追い出されてしまった。
白い大きな犬は、大きくなったから捨てられてしまったのだそう。
二匹の野良犬は、ボンをエサのあるところに連れていってくれた。
そこは牧場の牛のエサがあるところだった。
腹いっぱい食べられたが、美味しくはなかった。
ある日、漁師のおじさんの弁当を食べて逃げ出した時、ボンが車にはねられてしまった。
ケガをした後は、食べ物をくれる人たちに頼っていたが、前足の傷が腐ってきて、ついに歩けなくなった。
やがて、農家の人に見つかり、動物愛護センターの職員に捕まった。
3匹は動物愛護センターに運ばれたが、一週間のうちに飼い主が見つからなかったら殺される。
その頃、としおの一家は東京での暮らしが上手くいかず、一年経って元の家に帰ってきた。
としおが「ボンを迎えに行こう」と言うと、お父さんは嘘をついていたことを打ち明けた。
お父さんは必ずボンを探し出すと約束した。
それから、ボンを探して島中を歩き回った。
そして、動物愛護センターにいることを知った。
としおたちは、ボンに会うことが出来るのでしょうか。
会ったとして、また一緒に暮らすことは出来るのでしょうか。
『のら犬ボン』の素敵なところ
- 残酷でリアルな野良犬生活
- 職員さんからの胸に突き刺さる言葉
- 捨てられても信じ続けているボンの姿
この絵本では、捨てられた後の犬たちの生活が描かれます。
ご飯は自分たちで手に入れなければなりません。
干物を食べようとしたり、漁師の弁当を盗んだり、農家に隠れて牛のエサを食べたり。
それを毎日毎日繰り返すのです。
人間に見つかれば逃げなければいけないし、追い払われたりもします。
でも、やらなければ飢え死にしてしまうのです。
また、ケガの恐ろしさも生々しく描かれます。
病院に行けない状態でのケガ。
治すことも出来ずに、ただ悪化するばかり。
ボンは前足が腐り、最後には切断することになってしまいます。
徐々に悪化し歩けなくなる様が、この絵本ではしっかりと描かれているのです。
そんな残酷な現実を見続けているのが、動物愛護センターや青空クラブの職員です。
その人たちの言葉は、とても重く胸に突き刺さります。
愛護センターの所長は、お父さんに言います。
「あなたたちのように、犬を捨てる人がいるから、私たちは悲しい仕事をしなけらばならにのです」と。
青空クラブの職員も、目に涙をいっぱいためて言います。
「あなたは、この子がどんなつらい目にあったか、想像しましたか?」
「どんな悲しい思いをしてきたか、考えましたか?」と。
きっと、これらの言葉は、日々職員さんが胸に抱いている言葉なのだと思います。
それを濁さず、薄めず、ストレートに描いている所も、この絵本の本当に素敵なところです。
しかし、そんな辛い一年間を過ごし、前足も失ったボンは人間を信じ続けていました。
愛護センターの職員に捕まった時も、他の二匹は暴れていましたが、ボンは尻尾を振ってすり寄ってきたのです。
これは、としおたちと過ごしてきた日々が幸せだったからなのでしょう。
その姿は愛おしいと同時に、捨てることがどれほどの裏切りなのかも実感させてくれます。
捨てられた動物がどんな日々を送るかを、それに関わる人々の気持ちをリアルに描いている。
読むと、すぐにでも動物を抱きしめたくなる絵本です。
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