文:今江祥智 絵:石井聖岳 出版:文研出版
丸みを帯びたフワフワとしたクラゲ。
その中に一匹だけ、四角いクラゲの子がいます。
仲間はずれにされ、一匹で仲間探しを始めますが・・・。
あらすじ
月の綺麗な夜に、たくさんのクラゲの子が生まれました。
丸いクラゲの子の中に、一匹だけ四角いクラゲの子がいます。
名前はユラ。
ユラは四角いことを、他の仲間にバカにされ、笑いものにされてしまいます。
その夜、ユラは落ち込んで、仲間から離れてひとり眠りました。
翌朝から、ユラは四角い自分の仲間を探しに出かけました。
まず、イカの所で聞きますが、バカにされてしまいます。
次にタコの所に行きますが、やはりバカにされてしまいます。
さらにナマコの所に行ってみますが、やんわり「違う」と言われてしまいます。
ユラは仕方なく元の所に戻り、頭を押したり、岩にぶつけたりしてみますが、どうしても丸くはなりません。
夜になり、空には三日月がかかっています。
ユラは三日月にも聞いてみました。
「ぼく、どうして丸くならないのかしら」と。
三日月は何も答えず、綺麗に静かに光っています。
その夜から、ユラは毎日お月さまに呼びかけるようになりました。
ユラの悩みは解決するのでしょうか・・・。
『四角いクラゲの子』の素敵なところ
- 仲間外れにされる辛さがユラを通して伝わってくる
- とても心の底がほっとする物語
- とても綺麗な海と月
この絵本では、一匹だけ姿の違うユラの苦悩が描かれます。
絵本の大半が、苦悩する場面だと言ってもいいでしょう。
仲間からバカにされ、他の生き物にもバカにされ、いつも一人ぼっちのユラ。
その中でも、「あぶくのように、シュンと消えた方がいいなとさえ思いました」というのがとても印象的。
それほどまでに追い詰められてしまうのです。
でも、それは自分ではどうしようもないこと。
どうしようもないことをバカにされる苦しさが、ユラの姿や行動を通じて、痛いほどに伝わってくるのです。
そして、そんな物語の結末は、とても安心するものでした。
強さで乗り越えるのではありません。
心のありようを変えるわけでもありません。
違ったっていいじゃないかという見方を変えるものでもありません。
ですが、だからこそ、現状を変えるだけの力や気力がない人に、寄り添ってくれるのだと思います。
誰かから守られるような安心感・抱擁感があるのです。
心の底からほっとするような結末。
これが、この絵本のとても素敵なところだと思います。
また、忘れてはいけないのが、海と月の美しさです。
深い深い海の青。
自分も海の中を漂い、沈んでいく気分にさせてくれるほどの深さです。
青白く輝く夜空の月。
そのぼんやりとした優しい輝きに、本当に空を眺めている気分になります。
この二つの青が、海月を通して繋がるような一体感。
その美しさ。
この感覚を与えてくれるのも、この絵本の素敵なところだと思います。
そして、この感覚があるからこそ、最後の結末に納得感があるのだとも思います。
四角いクラゲの子ユラの姿を通して、仲間外れにされることの辛さが痛いほどにわかる。
だけど、その辛さを消してくれるほどの安心感も与えてくれる優しい絵本です。
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