作:工藤ノリコ 出版:PHP研究所
絵が本物になる不思議な墨。
その墨と絵で、様々な危機を乗り越えていきます。
絵を使った、知恵と機転が面白い絵本です。
あらすじ
昔々、あるお坊さんが、いろんな国を旅しておりました。
ある時、お坊さんはタコの国へやってきました。
お坊さんは絵を描くのが大好きです。
早速、松の木を描こうとしましたが、墨を切らしていました。
すると、どこからか「たこきち」と名乗る小さなタコが現れて、すずりに墨を吐いてくれました。
お坊さんがその墨で松の絵を描くと、なんと、その松が紙から飛び出しました。
たこきちの墨には不思議な力があったのです。
やがて、松の絵はすうっと消えてしまいました。
しばらくすると消えるのです。
お坊さんが感心していると、なぜかたこきちが泣きながら助けを求めてきました。
たこきちは言いました。
「悪い大ダコに、おっかさんと兄妹たちをさらわれてしまった」のだと。
大ダコは、海に浮かぶタコ島の洞穴の中にいると言います。
それを聞いたお坊さんは、船の絵を描きました。
そして、飛び出した船に乗り、タコ島へと漕ぎ出したのです。
タコ島に着くと、洞穴が真っ暗なので、ろうそくの絵を描きました。
その灯りを頼りに進んでいきます。
しばらく行くと、奥で大ダコが鍋の準備をしていました。
側にはおっかさんと兄妹たちがいます。
お坊さんは宝箱の絵を描くと、大ダコに渡し、おっかさんや兄妹と交換しました。
洞窟の外へ急ぎましたが、途中で大ダコが追いかけてきました。
宝箱が消えてしまったのです。
そこで柵の絵を描いて、後ろに投げて足止めします。
無事洞窟から出たお坊さんたち。
さらに、岩の絵を描いて、洞窟を塞ぎ、船へと乗り込みます。
ですが、安心したのも束の間。
岩が消えたとたん、大ダコが洞穴を飛び出しました。
そして、びゅーっ!と墨を吐くと、その墨が空に広がり黒雲に。
瞬く間に嵐になってしまいました。
大ダコの正体は妖怪だったのです。
一体、大ダコ相手に、お坊さんはどうするのでしょうか。
たこきちたちの運命やいかに・・・。
『たこきちとおぼうさん』の素敵なところ
- 飛び出す絵を使った知恵の冒険
- 時間制限があるドキドキ
- かわいいけれど大迫力な絵
この絵本の醍醐味は、飛び出す絵を使い、次々と危機を乗り越える面白さだと思います。
その場その場で機転を利かせ、ピッタリの絵を描いていく。
まさに知恵ととんちの冒険。
お坊さんにピッタリです。
なんでも出せるので、次に何を描くのか予想もつかずワクワクします。
お坊さんの機転に、子どもたちからも思わず、
「おおー!塞がった!」
「すごーい!!」
と感嘆の声が。
さらに墨なので、白黒というのも面白いところ。
絵を描いた時に「こんな絵を描きました」と、何を描いたか言われないのも相まって、
「岩かな?」
「これで通せんぼするんじゃない?」
と、何を描いたのかを予想する楽しさも加わるのです。
また、この絵には、制限時間があるのも素敵なところです。
宝が偽物だと気づかれたり、塞いでいた柵が消えたり、優勢だった戦いが一気に逆転されたり・・・。
制限時間があるだけで、こんなにも冒険がドキドキ感に満ちたものになるなんて。
子どもたちも物語が進むにつれ、
「急がないと消えちゃう!」
「もうちょっとだったのに!」
と、制限時間を前提にしたドキドキ感を楽しんでいました。
さて、そんな大冒険ですが、そこに出てくる絵は、みんなとてもかわいいのも素敵なポイント。
お坊さんの顔も、タコの顔も、その仕草もとても愛嬌があり、一度見たら忘れられません。
悪い大ダコの、悪そうな顔すらも愛嬌があるのですから。
でも、かわいいだけじゃありません。
追いかけられている時はハラハラする疾走感。
嵐の中では、大迫力のバトルが繰り広げられるのです。
このかわいさと躍動感のバランスが秀逸。
ほっこりする所と、ドキドキワクワクするところのメリハリがすごいのです。
不思議な絵を使った、大ダコとの頭脳戦が熱くて面白い。
ほっこりとワクワクとドキドキを同時に味わえる、次の旅も気になる絵本です。
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