バスザウルス(5歳~)

絵本

作:五十嵐大介 出版:亜紀書房

捨てられたバスが、長い時を経て動き出す。

恐竜として。

その旅路は、不思議で、優しく、どこか物悲しいものでした。

あらすじ

森の中に捨てられたボロボロのバス。

何十年も忘れ去られていたある日。

葉っぱのような手が生え、足が生え、尻尾が生えて、バスザウルスになりました。

バスザウルスは街に向かって、ゆっくりと歩き出しました。

バスザウルスは街に着くと、バス停で休憩を取りました。

すると、おばあさんがバスザウルスに乗り込んできました。

そして、別のバス停で降りていきました。

バスザウルスは、それから毎日、同じ時間にバス停に行き、おばあさんを乗せました。

しばらく経ったある日。

おばあさんは来ませんでした。

その次の日も。

バスザウルスは、毎日同じ時間にバス停で待ちました。

でも、おばあさんは来ません。

10日経っても、30日たっても、1000日待っても・・・。

バスザウルスは街を出ていきました。

バスザウルスはどこに辿り着くのでしょう。

『バスザウルス』の素敵なところ

  • どこか不気味で、不思議で、幻想的な世界観
  • 耳に残る少し悲しい足音
  • 想像力を無限に広げてくれる物語

「バスが恐竜になる」

これだけ聞くと、とてもロマンあふれるフレーズです。

でも、この恐竜はどこか不気味。

この世のものではないような、不思議な不気味さを持っているのです。

そして、その不思議さや不気味さが、この絵本の大きな魅力でもあります。

全体を通して、漂う不思議な世界に迷い込んでしまったような雰囲気が、子どもたちを包みます。

それを感じ取ったのか、みんな息を潜めるように見ていました。

けれど、不気味なだけではありません。

おばあさんとの優しいやり取り。

動物たちが集まってくる幻想的な場面。

おばあさんを待ち続ける切なさ。

など、様々な気持ちを揺り動かしてくるのです。

「バスザウルス優しいね」

「動物がたくさん集まってきた!バスザウルスのこと好きなのかな」

「おばあさんどうしちゃったんだろう」

と、子どもたちからも感じたことを伝えられます。

だけど、その声がみんな小声なのは、この世界観に浸っているからなのでしょう。

そんな世界観を、大きく印象付けているのがバスザウルスの足音です。

普通は恐竜の足音というと、「ドスン」や「ダッダッダ」といった、迫力ある音が使われると思います。

しかし、バスザウルスの足音は、

「ギッチギッチャ ガタン ズルズル ガシャリ ミシリ カタリ」

というもの。

劣化や、錆、不自由さなどを感じさせる音。

どこか不気味で、弱々しく、物悲しい音。

これが本当にこの世界観とピッタリで、この足音を聞くと、この世界へと入り込んでしまうのです。

さて、そんなバスザウルスの物語ですが、とても説明が少ないのも特徴です。

バスザウルスの手や足が、なぜ葉っぱみたいなのか?

おばあさんは何者だったのか?

なぜ、来なくなってしまったのか?

バスザウルスが何者なのか?

こういったことに、この絵本は何一つ説明をしません。

でも、創造するためのとっかかりはたくさんあります。

おばあさんを乗せて日が経つにつれ、バスの周りを人魂のようなものが飛び始める。

バスザウルスの周りに、山の動物たちが大勢集まってくる。

など、「こうかも知れない」と思わせてくれる場面がたくさんあるのです。

しかし、答えはありません。

それぞれのバスザウルスの物語が頭の中に広がっていくのです。

「おばあさんは死んじゃったんだよ」と死を感じる子。

「バスザウルスって優しいし、かっこいいよね」と純粋に恐竜を楽しむ子。

「おもしろいけど、少し悲しいお話だね」と物悲しい空気感を感じる子。

と、感想も本当に様々でした。

バスザウルスの旅の中で、不気味、不思議、切ない、悲しい、優しい、きれい・・・。

とてもたくさんの感情を揺り動かされる。

読み終わった時には、バスザウルスの足音が愛しくなっている絵本です。

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