作:降矢なな 出版:福音館書店
トカゲの兄弟二人だけでの初めてのお出かけ。
地図を見ながら、森の中を頑張って進んでいく二人。
しかし、途中で地図を落としてしまい・・・。
あらすじ
ある日、トカゲのちょろりんへ、いとこのちょさりんとおじさんから手紙が届きました。
それは「夏休みになったら、遊びにおいで」というものでした。
夏休みになり、ちょろりんは一人でおじさんの家へ行くことにしました。
一人で行くのは初めてです。
お母さんはお弁当を、じいちゃんは地図を描いて持たせてくれました。
いよいよ出発と言う時に、弟のとっけーがついてこようとしましたが、まだ小さいので置いていくことにしました。
おじさんの家へは、森を抜け、谷を下り、川を一つ渡らなければなりません。
じいちゃんは地図を描きながら「川の近くは物騒な場所だから、暗くなる前に橋を渡ってしまうんじゃよ」と言っていました。
ちょろりんは速足で進んでいきました。
森の真ん中まで来た辺りで、物音がしたので振り向くと、とっけーが立っていました。
こっそりついて来てしまったのです。
とっけーがどうしてもというので、ちょろりんは連れていくことにしました。
やっと山を抜けた時、もうお弁当の時間を過ぎていました。
二人は急いでお弁当を食べることにしました。
キャラメルしか持ってこなかったとっけーに、ちょろりんは肉団子を一つわけてあげました。
食べ終わると、急いでまた歩き出します。
暗くなる前に橋を渡らなければいけません。
夕方近くにあり、やっと橋へたどり着きました。
橋を渡ると、分かれ道です。
ちょろりんが地図を確認していると、とっけーが自分も見ようと手を出して来ました。
ちょろりんの手と、とっけーの手がぶつかったのその時、地図が風に飛ばされてしまいました。
地図は川に落ち、どんどん流されていきます。
ちょろりんはとっけーを突き飛ばし、夢中で地図を追いかけました。
しかし、とうとう地図は見えなくなってしまいました。
ちょろりんは途方に暮れながら、「とっけーなんか連れてくるんじゃなかった」と思いました。
同時に、とっけーがいないことにも気が付きました。
ちょろりんはとっけーを探しながら戻っていくと、橋の近くに人影を見つけました。
急いで土手を駆けあがりましたが、そこにいたのはお地蔵様。
辺りはすっかり暗くなっています。
ちょろりんは心臓がドクドクしてきました。
突然、ちょろりんの上に巨大なものが飛び掛かってきました。
イタチです。
ちょろりんは尻もちをついて、立ち上がることが出来ません。
ちょろりんはこのまま食べられてしまうのでしょうか。
そして、とっけーも食べられてしまったのでしょうか。
『ちょろりんととっけー』の素敵なところ
- 長い旅と時間の迫るドキドキ感
- 表情豊かなちょろりん
- まさかの救世主が渋くてかっこよすぎる
この絵本では、おじさんの家まで冒険の道のりが描かれています。
道中、弟がいることもあり、色々なことが起こります。
ズボンに穴が空いたり、弟がお弁当を持ってなかったり、地図が飛ばされてしまったり。
しかし、その中でも旅全体に緊張感を与えてくれているのが、時間です。
最初に家族から伝えられる目安の時間。
お母さんからは「お日さまがさんかくやまのてっぺんにきたら、お弁当にしなさいね」。
じいちゃんからは「暗くなる間に橋を渡っていしまうんだよ」。
と、ある程度のタイムリミットが告げられているのです。
でも、とっけーが来たことで、少しずつ旅が遅れます。
森を抜けた頃には、お日さまはさんかくやまのてっぺんを通り過ぎています。
子どもたちは、次の橋に間に合うか心配になってきます。
「間に合うかな?」
「暗くなっちゃうよ・・・」と。
橋についた頃には夕方近く。
何とか間に合ったと思っていた瞬間、地図が飛ばされてしまいます。
そして、戻ってきた頃には明らかに辺りが暗くなって来ているのです。
この冒険のワクワクと一緒に、「間に合うかな?」というドキドキ感を、ちょろりんと共有できるのが素敵なところです。
そんなちょろりんは、とても表情豊か。
旅の途中で、本当に様々な表情を体全体で表現してくれます。
胸を張って得意げな表情。
急いで弟を助けに行く慌てた表情。
ズボンに穴が空いて困った表情。
地図が飛ばされビックリした表情。
などなど、そのどれもが尻尾までフルに使い、その時の心境を表現しています。
だからこそ、どんな気持ちなのかがストレートに伝わってきて、より物語の中に入り込んでいけるのです。
さて、辺りが暗くなり、イタチに襲われてしまったちょろりん。
そこに現れたのは意外過ぎる救世主でした。
しかも、その見た目と裏腹に、もの凄くいぶし銀で貫禄のあるかっこよさ。
こんなにかっこよく描かれたのを見たことがありません。
子どもたちも最初は笑いがありましたが、段々とそのかっこよさがわかってきたようで、
「かっこよかったね・・・」
「強いんだね!」
と、最後には尊敬の眼差しで見ていたのが面白いところです。
兄弟の冒険を通して、トカゲの目線で森の中を歩き回ることが出来る。
ドキドキワクワクと、お兄ちゃんの苦労を味わえる絵本です。
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