著:ダニエル・ゴールマン 訳:土屋京子 出版:講談社
IQは頭の良さとして、よく聞く言葉です。
では、EQという言葉を、聞いたことはあるでしょうか?
EQとは心の知能指数と言われるものです。
IQはよくても、上手く人間関係が作れない例など聞いたことがあるでしょう。
それは頭の使い方と、心との向き合い方のアンバランスが原因だと考えられます。
本書ではそんなEQを紐解き、その重要性と、EQの具体的な育て方が紹介されています。
- 思いやりってなんだろう?
- 人生で上手くいくためには、どんな力が必要なんだろう?
- 保育や子育てでよく行われる仲立ちが、なんで必要なんだろう?
- 感情をどうやったらコントロールできる?
こんな疑問を持っている人には、とても参考になると思います。
それでは、EQの世界をのぞいていきましょう。
本書からの学び
本書では情動そのものについて、情動との付き合い方、それが社会の中でどんな力を持つか。
これらのことを、科学的知見とともに、伝えてくれる本です。
その中でも、
- 情動(感情)のメカニズムと重要性
- EQとは情動と上手く付き合っていく力であり、人間関係の基礎
- EQの育て方
上記の点が特に大きな学びとなりました。
ここからは一つずつ詳しく見ていきたいと思います。
情動(感情)のメカニズムの重要性
まず、EQを語る上で、切っても切り離せないのが”情動”についてです。
なぜなら、EQとは情動をコントロールする力でもあるからです。
情動とは簡単に言うと、怒りや悲しみ、絶望や希望、恐怖といった感情のこと。
では、これらの反応は科学的にどういう意味を持つのか?
そこから本書は始まります。
情動というのは、原始時代からある、生命を維持し、生き残るためのメカニズムです。
例えば、恐怖を感じれば、戦ったり、逃げたりするために、心拍数を上げ、脳を活性化し、いつでも動ける状態へ身体のモードを変化させます。
この情動の命令を司るのが、脳幹や、その近くの大脳辺縁系と呼ばれる、脳の根元に位置する部分です。
その周りに、理性を司る大脳新皮質があります。
これはつまり、情動への反応の方が理性よりも、より強く、早く影響するということでもあります。
情動をコントロールする力が弱いと、情動を感じたとたん、脳がハイジャック状態になり、理性がきかない状態になってしまうのです。
怒ると手が付けられなくなる人や、極度に悲観的な人などはまさにその典型例でしょう。
この情動のメカニズムは、確かに命の危険と隣り合わせだった、昔の時代には必要不可欠な能力でした。
しかし、現代では過剰反応となり、生きていくうえで不利になる行動へ繋がるものとなっています。
そのため、この情動をコントロールするための、EQが重要になってくるのです。
ただ、情動が必要ないわけではありません。
情動の脳と、考える脳の接続を切る実験の結果、驚くべきこともわかりました。
計算など言われたことは出来るのに、自分から何かをしようとしたり、決めることが出来なくなってしまったのです。
このことから、情動は行動し、生きるのに必要不可欠なものだということがわかりました。
だからこそ、上手く付き合っていかなくてはならないのです。
EQとは情動と上手く付き合っていく力であり、人間関係の基礎
では、そんな情動と付き合っていくための力”EQ”について、詳しく見ていきましょう。
本書ではEQの基本定義が紹介されている。
それが、
- 自分自身の情動を知る
- 感情を制御する
- 自分を動機づける
- 他人の感情を認識する
- 人間関係を上手く処理する
というものです。
1,EQの一番大切な基本。自分の感情を常にモニターできる能力は、自分自身を見つめ、理解するのに大切な力です。
2,これは自分の情動を認識しているからこそ出来ること。気持ちを立て直す力になります。
3,なにかを成し遂げるためには、自分で自分を動機づける力が必要です。そのために、なにかを我慢するなど、律する力でもあります。もちろん、自分の望むものがわかっていないと出来ません。
4,自分の情動を認識出来ていることで、相手の感情へ共感する力へ繋がります。根本的な人間関係処理能力でもあります。
5,これの大部分は、他人の感情を上手く受け止める技術です。
このように、詳しく見ていくと、「自分の情動を知る」ということが、最も根本的な力であることがわかります。
同時に、これがあらゆる人間関係の基礎であるということもわかります。
相手の気持ちを考えるためには、まず、自分の気持ちと上手く付き合う力が必要なのです。
また、感情をコントロールするためにも。
EQの育て方
EQが非常に重要なことはわかってきました。
では、そのEQをどうやって育てていけばよいのでしょうか。
まずは情動そのものについてです。
情動そのものについても、起伏の穏やかな人、起伏の激しい人様々です。
これには生まれついてのものと、乳幼児期に学習するものがあります。
大切なのは共感です。
共感される環境で育つと、自分の気持ちを見つめ、考える情動パターンが形成されます。
反対に、ストレスや攻撃的な環境で育つと、自分も攻撃的な情動パターンを形成することになってしまいます。
そして、この情動パターンは、人生の様々な場面で顔を出します。
友だちとの遊び、新しい環境での振る舞い、仕事。
不適切な情動パターンの形成がどれだけ、人生に影響を及ぼすかは想像に難くないと思います。
では、身に着けた情動パターンや、生まれつきの情動は変えることが出来ないのでしょうか。
そんなことはありません。
正しい情動との向き合い方を身につければ、行動を変えていくことが出来るのです。
色々な方法があるのですが、一つの方法を紹介します。
これは、ケンカが起こったり、悲しみに暮れているなど、情動が大きく動いている場面で行います。
- どんな感情を感じているのかを言葉にします。
- その原因を考えます。
- その原因に対して、適切な行動を考え、実行してみます。
最初は先生や、先輩、家族など頼れる人が間に入って行います。
次第に、情動にハイジャックされずに、考える余裕が生まれてくると思います。
そうなってきたら、徐々に自分だけで考え、コントロールしていけるようにしましょう。
こうして、自分の情動と向き合う中で、EQの基礎が身についていき、より高度なEQの力を発揮していけるようになると思います。
まとめ
この記事では、本書の中でもEQの本当に基本的な部分に焦点を当て、紹介しました。
これらのことへの科学的裏付けや、IQとの関係、フロー(ゾーン)と呼ばれ超集中状態の秘密、結婚生活・職場・医療現場でのEQの具体例、PTSDに対するEQの可能性、EQ教育を取り入れたカリキュラムについて。
などなど、興味深い内容がまだまだ盛り込まれています。
EQについて、興味を持たれた方は、ぜひ手に取って読んでみてください。
きっと、漠然と言われる「思いやりの心」「相手の気持ちを考える」などといったことへの、具体的な考え方に触れることが出来ると思います。
保育士の立場から感じること
保育士として、この本を読んだ時、もの凄い納得感がありました。
それは、本書でのEQ教育が、保育の現場で日々行っている、子ども同士のケンカや、泣いている子への声のかけ方のセオリーそのものだったからです。
保育園ではこんな風に声を掛けます。
- ○○って言われて嫌な気持ちがしたの?
- なんでそれを言われたの?
- じゃあ(その原因を踏まえて)、どうしようか?
このように基本的には1,気持ちを受け止め言葉にする、2,その原因を考える、3,どうしたらよりよく解決できるか考えるという、3段階を踏むのです。
でも、それで子どもが落ち着いたり、解決の方法を学んでいく効果があることはわかっていても、それを根拠に基づいて説明することは出来ませんでした。
色々な保育本や育児本を見ても、「子どもが安心する」「わかってもらえたと思う」という理由付けが多かったのです。
それを情動のメカニズムから、科学的根拠に基づいて述べられている本書を読んで、理論的な納得が得られました。
また、「思いやりを持つ」「相手の気持ちを考える」という、よく言われる子育て論。
「大切なのはわかるけれど、具体的にどんな育て方をすればいいの?」と感じることも多いと思います。
これに関しても、科学的観点から心について考えているこの本は、とても参考になりました。
そういう意味でも、保育士であれば一度は目を通しておきたい本であると思います。
コメント