セミのたね(4歳~)

絵本

作:阿部夏丸 絵:とりごえまり 出版:講談社

ある日見つけたセミの幼虫。

土から出てきてセミになるなんて、まるで種のようです。

そこで女の子は、朝顔の種と一緒に、セミの種も植えました。

あらすじ

ある晴れた青空の日。

女の子なっちは、朝顔の種を植木鉢に植えていました。

土を掘って、植木鉢に移していると、土の中から不思議な虫を見つけました。

すると、お母さんが、セミの赤ちゃんだと教えてくれました。

なっちは、土の中で暮らし、セミになると聞いて、セミの種だと思いました。

そこで、朝顔の種の隣に、セミの種も植えることに。

それからなっちは、遊ぶときも、お風呂に入る時も植木鉢と一緒です。

セミが生まれるのを、待ちわびていました。

そんな、ある夜。

なっちが眠りについた後、セミの赤ちゃんが土から顔を出しました。

カーテンを登っていくと、背中が割れ、中からセミが現れます。

そして、朝になりました。

セミの声で目を覚ましたなっち。

セミが生まれたことを知ったなっちの反応は・・・。

『セミのたね』の素敵なところ

  • なっちのとても子どもらしい姿
  • セミを種に見立てる想像力
  • 神秘的なセミの羽化

この絵本の主人公なっちは、「まさに子ども!」といった姿をたくさん見せてくれます。

特に「やーだよ。」が印象的。

お母さんに「セミの赤ちゃんを土に返してあげなさい」と言われても、「やーだよ。」。

「早く寝なさい」と言われても、「やーだよ。」。

しっかり、自分のしたいことをしようとします。

でも、「やーだよ。」と言うだけあって、全力でセミが生まれるのを楽しみにする姿も、「まさに子ども」。

いつでも植木鉢と一緒で、夜も起き、セミが生まれるのを「まだかなぁ」と待ちわびているのです。

朝顔の茎に、セミが咲いている夢を見るほどに。

この子どもらしさが、見ている子どもたちに共感を生み、なっちになりきって、一緒に種を育てている気持ちにさせてくれているのでしょう。

「なかなか出てこないなぁ」

「本当にセミになるのかな?」

と、なっちと同じくらい、待ち遠しそうだったので。

さて、そんななっちが育てているセミの種。

セミの赤ちゃんを、セミの種に見立てたことから始まっています。

その想像力が、本当に素敵です。

セミと植物の「土の中で育って、顔を出し大きくなる」という共通点。

それを見つけることは、中々出来ることではありません。

その想像力があったからこそ、植木鉢で種として育てる発想になったのでしょう。

全く違う種類のものの共通点。

この絵本を読んでいると、そんな面白いものを見つける想像力が広がる気がします。

そんなセミの種も、羽化する時を迎えます。

その姿が、とても神秘的で、美しいのもこの絵本の素敵なところ。

夜の青い月をバックに、羽化していく姿。

少しずつ出てきて、羽を広げる姿は、まさに生命の神秘を目の当たりにしているようです。

子どもたちも、固唾をのんで見守ります。

「綺麗・・・」

「セミになった・・・」

と、言葉が漏れ聞こえることも。

この場面は、本当に静かな夜になったような空気感になっていました。

さらに、そこに添えられた文章も、詩的で素敵。

カーテンを登っていくところでは「静かな夜に目を覚まし、歩いて空を探します」。

背中が割れ、出てくる場面では、「明るい朝を待ちながら、まっくらな夜を脱ぎ捨てる」。

というように、この場面をより神秘的で、美しいものにしてくれているのです。

セミの種を見つけたなっちと一緒に、自分もセミの種を育てている気持ちになれる。

セミが花開く瞬間に、思わず息を呑んでしまう絵本です。

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