作:阿部夏丸 絵:とりごえまり 出版:講談社
ある日見つけたセミの幼虫。
土から出てきてセミになるなんて、まるで種のようです。
そこで女の子は、朝顔の種と一緒に、セミの種も植えました。
あらすじ
ある晴れた青空の日。
女の子なっちは、朝顔の種を植木鉢に植えていました。
土を掘って、植木鉢に移していると、土の中から不思議な虫を見つけました。
すると、お母さんが、セミの赤ちゃんだと教えてくれました。
なっちは、土の中で暮らし、セミになると聞いて、セミの種だと思いました。
そこで、朝顔の種の隣に、セミの種も植えることに。
それからなっちは、遊ぶときも、お風呂に入る時も植木鉢と一緒です。
セミが生まれるのを、待ちわびていました。
そんな、ある夜。
なっちが眠りについた後、セミの赤ちゃんが土から顔を出しました。
カーテンを登っていくと、背中が割れ、中からセミが現れます。
そして、朝になりました。
セミの声で目を覚ましたなっち。
セミが生まれたことを知ったなっちの反応は・・・。
『セミのたね』の素敵なところ
- なっちのとても子どもらしい姿
- セミを種に見立てる想像力
- 神秘的なセミの羽化
この絵本の主人公なっちは、「まさに子ども!」といった姿をたくさん見せてくれます。
特に「やーだよ。」が印象的。
お母さんに「セミの赤ちゃんを土に返してあげなさい」と言われても、「やーだよ。」。
「早く寝なさい」と言われても、「やーだよ。」。
しっかり、自分のしたいことをしようとします。
でも、「やーだよ。」と言うだけあって、全力でセミが生まれるのを楽しみにする姿も、「まさに子ども」。
いつでも植木鉢と一緒で、夜も起き、セミが生まれるのを「まだかなぁ」と待ちわびているのです。
朝顔の茎に、セミが咲いている夢を見るほどに。
この子どもらしさが、見ている子どもたちに共感を生み、なっちになりきって、一緒に種を育てている気持ちにさせてくれているのでしょう。
「なかなか出てこないなぁ」
「本当にセミになるのかな?」
と、なっちと同じくらい、待ち遠しそうだったので。
さて、そんななっちが育てているセミの種。
セミの赤ちゃんを、セミの種に見立てたことから始まっています。
その想像力が、本当に素敵です。
セミと植物の「土の中で育って、顔を出し大きくなる」という共通点。
それを見つけることは、中々出来ることではありません。
その想像力があったからこそ、植木鉢で種として育てる発想になったのでしょう。
全く違う種類のものの共通点。
この絵本を読んでいると、そんな面白いものを見つける想像力が広がる気がします。
そんなセミの種も、羽化する時を迎えます。
その姿が、とても神秘的で、美しいのもこの絵本の素敵なところ。
夜の青い月をバックに、羽化していく姿。
少しずつ出てきて、羽を広げる姿は、まさに生命の神秘を目の当たりにしているようです。
子どもたちも、固唾をのんで見守ります。
「綺麗・・・」
「セミになった・・・」
と、言葉が漏れ聞こえることも。
この場面は、本当に静かな夜になったような空気感になっていました。
さらに、そこに添えられた文章も、詩的で素敵。
カーテンを登っていくところでは「静かな夜に目を覚まし、歩いて空を探します」。
背中が割れ、出てくる場面では、「明るい朝を待ちながら、まっくらな夜を脱ぎ捨てる」。
というように、この場面をより神秘的で、美しいものにしてくれているのです。
セミの種を見つけたなっちと一緒に、自分もセミの種を育てている気持ちになれる。
セミが花開く瞬間に、思わず息を呑んでしまう絵本です。
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