作:たてのひろし 出版:福音館書店
樹液の匂いに誘われて、一匹の蝶が飛んできました。
でも、そこには先客が。
まるで写真の様な絵で描かれる、夏の林の物語です。
あらすじ
夏の林で、どこからか甘酸っぱい匂いがしてきます。
その匂いに誘われて、一匹の蝶がやってきました。
匂いを辿っていくと、木から樹液が出ています。
でも、そこにはカナブンがたくさん。
蝶が仲間に入れてもらおうとすると、蹴飛ばされてしまいました。
追い出された蝶が林の中を飛んでいくと、また甘酸っぱい匂いがします。
今度は木の割れ目からでした。
蝶が近づくと、割れ目の中にはテントウムシがいっぱいいて吸えません。
また、蝶は別の場所を探しに行きました。
今度見つけた場所には、カブトムシやススメバチなど、強そうな虫たちがいました。
蝶が仲間に入れてもらおうと近づいた時、カブトムシとクワガタムシがケンカを始めました。
蝶はまた別の木を探すことになりました。
一体いつになったら、蜜を吸うことが出来るのでしょう・・・。
『なつのはやしのいいにおい』の素敵なところ
- まるで写真のような林と虫たち
- 自然界のリアルな厳しさが描かれている
- 徹底した蝶の目線
この絵本は、風景や虫たちが、本当の写真のように、写実的に描かれています。
蝶の羽の毛羽立ち感、カナブンの輝く体、カブトムシの産毛まで。
細かい所まで描き込まれていて、ずっと見ていられるほど見惚れてしまいます。
虫が好きなら好きなほど、釘付けになってしまうでしょう。
そして、絵がとても写実的だからこそ、厳しい自然の物語にも納得感が生まれるのだと思います。
蝶は蜜を見つけても、簡単には吸えません。
先客たちは、どれも硬い殻を持った、力強い虫たちばかり。
「仲間に入れて」と言っても、簡単に入れてくれるわけもなく、縄張り争いに負けてしまいます。
この厳しさと、写実的な絵が相まって、この絵本で描かれる林をリアルなものにしてくれているのだと思います。
でも、逃げてばかりもいられません。
食べ物にありつけなければ死んでしまいます。
そこでの解決策も、まさに蝶ならではといったもので、厳しい自然界だからこその生き残り戦略を感じられるのも素敵なところ。
まさにひらひらと飛ぶ、蝶の生き様が詰っているのです。
また、徹底して蝶の目線で描かれる文章も面白いところ。
この絵本では蝶以外の虫の名前は出てきません。
虫の名前を知っているのは、人間だけだからでしょう。
カナブンはてかてかの虫。
テントウムシは小さな黒い虫。
カブトムシやクワガタムシは大きくて強そうな虫。
と、蝶から見た時の、直感的な呼び方で描かれます。
他にもカナブンの群れに「仲間に入れてね」と声をかける姿や、「いいにおい、いいにおい」と嬉しそうに匂いのする方に飛んでいく姿など、可愛い言動に応援したくなるのも素敵なところ。
これらによって、自分も蝶の目線になり、林を飛び回ることが出来るのです。
とても写実的な絵で描かれた、林の中を飛ぶ一匹の蝶。
その姿を通して、自然界の厳しさや、虫たちの特性を感じられる絵本です。
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