文:かんのゆうこ 絵:北見葉胡 出版:講談社
夏の風物詩、風鈴。
その音の中に、風の歌が聞こえた人はいるでしょうか?
その歌が聞こえたのなら、なつねこに会えるかもしれません。
あらすじ
夏になると、女の子のなみこの家では、軒下に風鈴がかけられます。
なみこは風鈴の音が大好きでした。
その音を、お母さんは「ガラスの揺れる音」と言いますが、なみこにはガラスの揺れる音の奥から、透き通った風の歌が聞こえる気がしてなりません。
そんなある日の夕暮れのこと。
なみこが、風鈴の音に耳をすましていると、庭の向こうから風鈴の音が聞こえてきたのです。
不思議に思って外に出てみると、そこには浴衣を着たかわいらしいネコが、風鈴を持ってちょこんと立っていました。
そのネコはこなつと名乗り、なみこの家の風鈴は兄が作ったものだと言いました。
こなつはなみこに「風鈴づくりを見に来ませんか?」と聞きました。
なみこは風鈴づくりを見に行くことに決め、こなつについていきました。
歩きながら、こなつは色々なことを話してくれました。
昔はクーラーがなかったので、涼むために風鈴がよく売れたこと。
今は風鈴をかける家も減ったこと。
でも、兄さんは風鈴が好きで、作り続けていることなど。
話に夢中になっていると、いつの間にか見知らぬ森の中を歩いていました。
そして目の前には一軒の家が。
そこがこなつの家であり、風鈴づくりの工房でした。
中に入ると、工房の戸が開き、こなつのお兄さんが顔を出しました。
名前はなつねこ。
早速、風鈴づくりを見せてもらうことになり、なみこは工房の中へ。
なつねこは溶かしたガラスを、ガラス棒の先に巻き取ります。
さらにガラス棒の反対側から息を吹き込むと、溶かしたガラスが膨らんで、丸いガラス球になったのです。
ガラス玉が出来たら、次は絵付けの作業です。
なみこも絵を描かせてもらえることになり、なつねこと一緒に絵付けを始めました。
そこでなみこは思い切って聞いてみることにしました。
風鈴から聞こえる、風の歌のことを。
すると、なつねこはこの工房で作られる、風鈴の秘密を教えてくれたのです・・・。
『なつねこ』の素敵なところ
- 風鈴から始まるひと夏の出会いと物語
- 不思議で面白い風鈴の作り方がわかる
- 風鈴の透き通った音の素敵な秘密
この物語は、風鈴の澄んだ音色から始まります。
その音を通して、こなつと出会い、不思議な工房へと誘われます。
そこで起こること、その後のことはまさに夏の夜の夢のよう。
とても素敵で、不思議で、でもどこかおぼろげな一夜。
これが夏の夜のイメージとぴったりで、美しくも儚げな雰囲気を醸し出しているのです。
読み終わった後に、風鈴の綺麗だけれど、どこか儚く、残響を残し消えていく音色を絵本全体から感じられるのが、素敵なところです。
さて、そんな出会いの中で辿り着く、風鈴工房。
そこではなつねこが、風鈴を作るところを見せてくれます。
そこでの風鈴の作り方は現実と一緒です。
あの風鈴の不思議な形が、どうやって出来るのか?
固いガラスをどうやって成型するかがわかります。
そんな風鈴の作り方を、なみこと一緒に教えてもらうことが出来るのも、素敵なところでしょう。
しかし、なによりも嬉しいのは、風鈴の秘密を知ることが出来ること。
なみこが風鈴の音の奥から感じていた歌。
その秘密を教えてもらえます。
この秘密が、詩的でロマンチックでとっても素敵。
知れば、風鈴の音を聞いた時に、新たな物語が頭の中に浮かんでくるかもしれません。
そして、風鈴を見た時に、「これはなつねこが作った風鈴かな?」と思いを馳せてしまうでしょう。
そんな魅力が、なつねこの風鈴には込められています。
風鈴の音色をきっかけにした、不思議で素敵で儚い出会い。
読めば、自分の家にも風鈴をかけ、その音色に耳をすませたくなる物語です。
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