文:塩野米松 絵:村上康成 出版:ひかりのくに
バシャバシャと入るのが楽しい夏の池。
そんな時、池の中ではなにが起こっているのでしょう。
さあ、池の中に潜って見てみましょう。
あらすじ
男の子と女の子が、池に遊びに来た。
子どもたちがアメンボを見つけた頃、池の中では魚やドジョウ、ゲンゴロウなどの虫たちがゆったりと泳いでいる。
そこへいばりんぼうの、アメリカザリガニが泳いできた。
小魚たちは逃げ出した。
そこへ現れたのはオオナマズ。
アメリカザリガニを追いかける。
と、急に大きな足が池の中に入ってきた。
さらに、大きな網も現れた。
メダカたちは逃げ出したが、一匹だけ網の中。
男の子は捕まえたメダカを、女の子へプレゼント。
静かになった池の中・・・。
捕まったメダカの運命は・・・。
『なつのいけ』の素敵なところ
- 水の上と水の中、両方の視点で描かれる夏の池
- 夏の池のよくある風景
- 言葉が少なく想像の膨らむ物語
この絵本の面白いところは、池の上の人間目線と、池の中の魚たち目線で物語が進んでいくところです。
楽しそうに遊ぶ子どもたち。
でも、その時、池の中では大騒ぎ。
巨人のような足が入ってきたと思ったら、大きな網まで現れる。
魚たちにしてみれば、天変地異のようなもの。
焦る様子が伝わってきます。
いつもジャバジャバ入っている子も、少し魚たちの気持ちがわかるでしょう。
メダカが網に掴まると、子どもたちは、
「あ、掴まっちゃった」
「逃げて!」
と、言いますが、水の上に視点を移すと、それは捕まえた達成感とプレゼントに変わります。
上手く捕まえられて、男の子は嬉しそう。
子どもたちも、虫などの生き物でよくやる光景に、ちょっと複雑な気分になります。
この視点の行ったり来たりが面白く、どちらの視点だけにも立てません。
その場面ごとの、それぞれの立場を感じるのが素敵なところです。
そんな一つ一つの場面に、共感や複雑な気分をもたらしてくれるのは、それぞれの場面が既視感あるものになっているからだと思います。
アメンボを見つけて、そーっと近づいたり、池にバシャバシャ入ったり、網ですくったり・・・。
見つけたものをプレゼントしたり、捕まえた生き物を家に持って帰ったりするのもそうでしょう。
やったことがあるからこそ、その時の池の中視点に、色々な思いが生まれるのです。
さて、この絵本は文章がとても少ないのも特徴的です。
一ページに、一言、二言の文章しかありません。
だからこそ、想像力が膨らみます。
池の中の力関係や、捕まったメダカの気持ち、捕まえた子の気持ち・・・。
特に、メダカが捕まった後の場面では、雰囲気や表情からページとページの間の物語が想像できるのが面白い。
そこに至るまでの物語は、見た人の数だけあることでしょう。
さらに行間から、セミの鳴き声や、水の音が聞こえてくる気がするのも素敵なところ。
自分も夏の池にいる気分になるのです。
二つの視点で見る夏の池を通して、それぞれの思いや立場を感じることが出来る。
読んでいると、自分がまるで夏の池に立っている気分になれる絵本です。
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