作:テリー・ファン&エリック・ファン 訳:増子久美 出版:科学同人
それはおじいさんが語ってくれた、不思議な話。
海の向こうに、海と空が出会う場所があるという。
ある日、フィンはその場所へ向かい、船をこぎ出した。
あらすじ
男の子フィンは、海の側で暮らしていました。
今日はおじいさんの90歳の誕生日です。
フィンはおじいさんの言っていたことを、思い出していました。
ずうっと遠くに、海と空が出会う場所があるという話を。
フィンは船を作りました。
旅に出るのです。
本当はおじいさんと2人で行く約束でしたが、フィン一人だけ。
船作りに疲れたフィンは、船の中で少しだけ昼寝をしました。
目を覚ますと、船はゆらゆらと揺れていて、いつの間にか海の上にいました。
しばらくして、フィンが「広い海の上って、こんなに寂しいんだ」と呟くと、それを聞きつけ、金色の大きな魚がやってきました。
フィンは金色の魚に、海とそらが出会う場所について尋ねました。
すると、金色の魚はフィンを案内してくれると言います。
金色の魚についていくと、本の島や、貝殻の転がる島、水海月が舞い踊る海などを通り過ぎ、ついに海とそらが出会う場所に辿り着きました。
そこでは海の生き物や船が、気球と一緒に空を飛んでいるのです。
フィンの船も浮かび上がりました。
そして、空へ・・・。
そこには大きなクジラや、飛行船、船、潜水艦まで、色々なものが飛び、泳いでいました。
そんな中、金色の魚は月に向かって泳いでいきます。
金色の魚が月に溶け込むと、そこには・・・。
『海とそらがであうばしょ』の素敵なところ
- 美しく幻想的な海とそらの旅
- 想像し自分で補完していく物語
- 不思議な旅をした後の静かな余韻
この絵本の魅力はなんと言っても、その幻想的で美しい世界観にあるでしょう。
表紙を見ただけで伝わってくる、圧倒的な世界観。
その世界を、絵本の中では冒険していきます。
小さな船で行く大冒険。
その船は、手作り感がすごく、パーツには庭の柵や、家の窓枠、布を縫い合わせた帆など、少し心配になる出来です。
しかし、気付けば海の上。
そんな小舟で、驚くべき冒険が始まります。
すごいのは、この始まりの海から幻想的で、霧がかった海、その上の空には、ゾウやクジラ、錨のような形の雲が浮かびます。
さらに進むと、空には星が瞬き、大きな月が浮かび上がります。
そこに現れる大きな金色の魚は、まるでおとぎ話のよう。
そこから世界はさらに広がります。
本を積み上げ作られた島。
色々な形の山のように巨大な貝殻が転がる島。
キラキラと輝く水海月が灯篭のように見える海域。
そして、目の前に広がる水平線と、星の海へと浮かび上がる海月や船たち。
そのどれもが、ファンタジックで、幻想的で圧倒的な表現力で描かれます。
ページをめくるたび、息を吐かずにはいられません。
思わず「わぁ・・・」「きれい・・・」と、言ってしまいます。
この美しさと、不思議さが詰った世界が本当に素敵なのです。
さて、そんな世界を旅する物語は、とても余白のあるものでした。
おじいさんは今どこにいるのか?
金色の魚はなんだったのか?
海とそらが出会う場所とはなんだったのか?
空を飛んでいた船や気球、海の生き物たちは誰だったのか?
果ては、本当に海へ漕ぎ出していたのか・・・。
絵や文章の端々から、想像は出来ますが、はっきりと謎が解けることはありません。
読んだ人それぞれの物語と、解釈が存在します。
それがこの絵本をより幻想的で、より深みのあるものにしてくれているのだと思います。
想像力を働かせ、自分の世界に浸っているからか、この絵本には読み終わった後、静かな余韻があります。
「あれはどういうことだったんだろう?」
「綺麗な場所だったな」
「空を飛んでるみたいだった」
きっと、それぞれの頭の中で、色々な思いが巡っているのでしょう。
静かな満月の夜とともに終わる、フィンの冒険。
その静けさが、見ている子どもたちにも広がっているような。
絵本を閉じても、その世界にまだいるような。
そんな不思議な静けさの余韻が、この絵本にはあるのです。
絵本を読み終わった後にも、物語が続いているようなこの感覚も、この絵本の素敵なところです。
美しく、不思議で、幻想的な海とそらへ、フィンとともに旅に出る。
読めばその世界に心も体も入り込んでしまう絵本です。
コメント